大学卒業後の15年ほどはアパレルメーカーで営業職や新規事業に携わってきました。働きながら夜は神戸大学の大学院でも学びました。専攻はマーケティングです。大学の制度を利用して、パリのESCP( 経営大学院)に留学したのを機に「グローバルで戦えるブランドとは何か?」を考えるようになりました。当時はインターネットが急速に普及し、ブロードバンドも現実味を帯びてきた時期。ネットを活用できるビジネスができるムジ・ネットに転職しました。
ムジ・ネットは無印良品を展開する株式会社良品計画のウェブ事業を担当する会社です。無印良品では従来から消費者の意見を商品開発に取り入れてきましたが、ネットを活用すれば双方向に意見を交わし、商品開発ができると考えたのです。
無印良品のコミュニティサイトでは、数多くの商品が消費者参加型で開発され、その分野も日用品だけでなく、自動車や家にまで広がっていきました。後に「クラウドソーシング」と呼ばれる手法ですが、世界的に見ても先駆的な成功事例だったと思います。
2004年に博士号を取得し、会社を退職して大学の研究者になりました。消費者の発想によって商品が生まれる「ユーザーイノベーション」の研究は世界的にも新しい分野だったので挑戦してみる価値があると思ったのです。
2006年から続けているプロジェクトに「Sカレ(Student Innovation College)」があります。マーケティングを学ぶ大学生が商品企画のプロセスに挑戦するコンテストです。優勝したプランは協力会社によって実際に商品化されます。
特徴はコンテストのスタート段階でアイデアを公表すること。その後の5カ月間をかけてプランを具体化し、その途中経過をウェブサイトで紹介していきます。参加する学生たちは他のチームの内容に影響を受けながら自分たちの企画に取り組んでいくのです。「競争」と「共創」が商品開発のイノベーションに拍車をかけるSカレは世界的に見ても例のない手法でしょう。
私のゼミでは、このSカレに加えて、企業への商品提案も行っています。学生たちは講義で学んだマーケティング理論を実践できるのです。理論を実践に生かすことで、理論の良い面、悪い面を理解できますし、大学での学びが社会で役立つことを実感できます。
私自身は無印良品など企業の実例を検証しながらユーザーイノベーションのメカニズムを明らかにし、日本の企業や起業家が活用できる理論を提示していきたいと考えています。
マネジメントとモノづくりが互いに刺激し合いながら、かつてない商品を創造する。大学でも、経営やデザインを学生たちが一緒に学ぶ機会が多くなれば、新しいアイデアや関係性が生まれる場所になっていくと思いますね。
「学生の『競争』と『共創』がイノベーションを引き起こす」『法政大学報』第45号、2015年1月1日、p.18(『YOMIURI ONLINE』 2015/01/13公開)