日本のイノベーターは約390万人
「メーカーがモノをつくり、ユーザーはそれを使うだけの関係が変わりつつある」と話すのは、法政大学の西川英彦教授。クリス・アンダーソンが著書『MAKERS』で描いたような、誰もが製造業になれる「メイカームーブメント」というパラダイムシフトが起ころうとしている今、企業も現在の環境に適した自らのあり方を考える必要があると指摘する。
西川教授は顧客の声を聞き共創型のモノづくりを他社に先駆けて実践してきた良品計画の関連会社、ムジ・ネットの取締役を務めたのち研究者に転身。それゆえ、マーケティングを専攻としながらも特に「ユーザー・イノベーション」を主軸に研究を進めている。
ユーザーが新しい製品やサービスの開発や改善などのイノベーションを自ら実現するのが「ユーザー・イノベーション」。企業は、ユーザーの潜在化したニーズをリサーチで探るという今までの手法だけではなく、自分のためにイノベーションをすでに実現しているユーザーのアイデアやイノベーションを見つけて活用していくこともできるのだ。「日本には様々なカテゴリでのイノベーターを合わせると、約390万人いるとされている。さらにそれぞれのユーザーが企業の知らないところで、そのイノベーション実現のために費やした平均金額は12万円(エリック・フォン・ヒッペル教授/小川進教授ら調査)。現在は、この“資源”がほとんど活用されないままになっている」と西川教授は話す。
眠ったままの資産を活用する
西川教授らの調査によると、日本でも消費者からアイデアを募り、共創のモノ作りを目指す企業もあるが、継続した活動になっていないケースも多くみられるという。「あくまでキャンペーン的に“消費者参加型”というスタイルを使っているケースが多いからではないか」と指摘する。しかしながらユーザーからアイデアを募った製品開発を行っている良品計画のケースでは、そうしたプロセスを経て開発された製品群は、従来型開発の製品群に比べて、3.6倍の売上を達成し、新規性や戦略的重要性も高い。その他、日本企業の中ではフェリシモも継続的に、ユーザー・イノベーションの活用に取り組んでいる企業のひとつ。2000年から開始された「生活雑貨大賞」がそれで、優秀なアイデアを毎年商品化。さらに発売後1カ月で販売枚数が多かったアイデアを最優秀賞者作品として表彰している。
「米国では『quirky(クォーキー)』という、ユーザーのアイデアを募り、全員で投票・コメントし、よいアイデアは商品化して販売する会社が成長している。参加するには10ドルの費用が発生するが、あえてハードルを高くすることも、真に活かせるアイデアを集めるポイント」と西川教授は話す。
一方で「『クォーキー』は日本の『空想生活』のモデルを参考に、ブラッシュアップしてつくられたビジネスモデル。もともと日本には顧客の声を聞くという姿勢があり『ユーザー・イノベーション』を先進的に活用できていたのに、現在米国をはじめとする海外の企業の後塵を拝している状況に忸怩たる思いを抱いている」という。
日本の消費財メーカーのR&D支出が約3兆4700億円に対し、390万人のイノベーターが独自に投資する金額を合計すると4600億円となり13%にも達する。眠ったままの開発資源をいかに活用していくか…。これからの時代の「メーカー」のあり方を考え直すべき時が来ているのではないだろうか。
<西川先生のおすすめ書籍>
西川氏のお薦めの1冊は、共同研究をする機会も多い神戸大学大学院の小川進教授の『ユーザーイノベーション: 消費者から始まるものづくりの未来』(東洋経済新報社刊)。
「研究室へようこそ!変わる、メーカーとユーザーの関係に注目」『宣伝会議』2014年 6月号, p.162
>『宣伝会議』2014年 6月号