Sカレも11年目に入りました。
世の中にビジネスプランコンテストはたくさんあり、そのほとんどが企業側が学生のプランをほめて終わるというものです。それらと比べると商品化までめざすSカレは稀有(けう)な存在です。Sカレは最初から商品化にこだわってやってきています。
実際の商品化とプラン優勝や企業賞などの賞の授与、この二つは最初から就活や、その先のマーケティング実務を意識してやってきました。
各大学のゼミの先生方も同様の考え方だと思います。Sカレには理論と実践、学問と実学を体現できるインフラが整っていて、商品化できるうえに、賞ももらえ、就活や企業で生きる。こういったことが共通の認識でしょう。
ここ10年で学生の気質は変わりましたか?
気質はあまり変わっていません。一方、環境は大きく変わりました。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が盛んになってきて、他のチームの動きもみえるようになり、企業の指導も増えてきました。
Sカレの重要なキーワードは、競争(Competition)と共創(Co−creation)の二つです。競争はSNSが盛んになり、他のチームを意識せざるえなくなる状況になりました。共創は、SNSを通して企業と連絡しやすくなった。そういう意味で学生は、より能動的で積極的にならざるを得なくなりました。
Sカレに参加する学生は、そもそも自主性に優れているように見えます。
Sカレは、文系のインカレです。学生は、他大学に勝ちたいという思いが強い。秋カン(大会)で1位だったチームは、それを維持したいと思うし、よくなかったチームは挽回したいと思い、実際に冬カンでの逆転劇も多い。こういったことが、自主性や積極性につながっています。
Sカレを通じて伸びる学生も少なくありません。私のゼミでは、それまで目立たなかった学生が、積極的になったケースが、たくさんあります。Sカレで活躍して、翌年のSカレの学生委員までやる学生も多いです。就職もマーケティングを希望し、いまも企業で活躍していると聞いています。
Sカレを通して、学生はいかに成長していくのでしょうか。
Sカレは、アイデアだけでは商品化はできないので、市場調査や原価計算など実践的に学びながら進めていきます。それぞれのテーマで15チーム前後が競うのは、かなりヘビーで、実際の企業より困難かもしれません。
そしてそれぞれのチームが、だいたいみんなけんかしながら、やっています。そこにマネージメントのむずかしさがでてくるわけです。評価されないというジレンマもあります。これらは限りなく社会に出たときに体験することに近い。担当教員が評価してくれても優勝するわけでなく、逆に裏目に出ることもあるわけで、理不尽さやくやしさを感じることもあります。「やっぱり、あっちのチームがいい」と企業の人の心変わりだってあります。悔しさ、達成感、喜び……短期間でさまざまなことが凝縮されていて、そういうこと経験し、乗り越えれないチームは残ってきていません。
SカレのOBやOGが集まると、学生生活の中でSカレが一番おもしろかったと話しています。経験が生きているんですね。商品開発やマーケティングに目覚めた学生も多くいます。
Sカレは就活に有利ですか
実学のマーケティングや、心をつかむプレゼンの手法などは大いに役立つはずです。学生が実践しているデプスインタビューや、観察法、リード・ユーザー法などの探索的調査は先端的な手法で、企業によってはやっていないところもあります。またSNSの活用も同様です。こうしたことは、入社後に力を発揮するでしょう。
かつて、何社受けても内定をもらえなかった学生が、開き直って、面接で「2分ください」とSカレでのプレゼンをその場で再現したところ、一発で受かりました。その学生はプレゼン力を自分のものにし、面接官もそれを評価したのではないでしょうか。
Sカレに参加する学生に求める最大のことは?
とにかく商品化を実現してほしいです。最初にも言いましたが、Sカレのスタートは商品化です。それが関わった企業にお返しできることでもあるのです。
学生は悔いがないように、チームや企業、教員に遠慮せず、失敗してもいいので、力を出し尽くしてください。そう、高校野球みたいに。高校野球はチームワークです。Sカレもチーム内でぶつかりながらも、共創と競争を意識しながらやっていってください。
商品化を目指して、成長につなげていってください。この経験は絶対に社会に出てから生きてきます。
【取材 毎日新聞社 江刺弘子】
「競争と共創でスキルアップ 法政大学・西川英彦教授」『毎日新聞Sカレ2015特集ページ』(2016年10月3日公開)