Sカレ10年を迎えて
Sカレの目指すところは、「未来のマーケターの育成」です。10年前、2つのマーケティングのゼミによる小さな共同作業からスタートしたSカレですが、10年を迎え、400人もの、日本全国でマーケティングを学ぶ学生参加者を得るに至りました。
その志向するところやプロセスは、10年前とほとんど変わりません。
① 理論的なベースのある商品企画プロセスを学び、
② そのプロセスをマネジメントすることを実際に経験し、
③ 商品企画デザインにかけた自らの考えや思いをウェブ上あるいは会場で提案発表し、
④ 実現した商品を現実の市場において問う
というものです。
Sカレの有志の先生方によって、Sカレの理論を学ぶテキストとして、西川英彦・廣田章光編著『1からの商品企画』(碩学舎、2012年)も刊行されています。学生たちは、そのテキストを通読し、このSカレの場でマーケティングのトータルな実践を経験し、マーケティングの理論を身に付いたかたちで学んでいくことができるようになっています。
Sカレのもう一つの特徴は、数百人もの大学生が一堂に会する機会、実際のサプライヤーやユーザーの方々と対話する機会があることです。その機会を中心に、商品企画・デザインを進めます。こんな大規模かつ高いコミュニケーション密度をもった「マーケティング実践の学びの場」は、世界広しといえどもここしかありません。仲間との共同作業の中で、あるいはライバルチームと成果を競う中で、学生たちはかけがえのないマーケティング経験を積んでいきます。
Sカレのもう一つのそしてもっとも誇りたいと思う特徴は、各大学のSカレOB・OGが学生委員となり、Sカレを運営していることです。学生委員の多くは、Sカレを経験した4年生もしくは3年生です。全国に散らばるSカレ・メンバーをマネジメントすることは大変ですし、彼らも就活や卒論などの個々の課題も抱えているはずです。それでも、積極的にボランティアとして運営に参加してくれています。学生委員の彼らたちが、一番深く、このSカレの意義を理解していると言っていいのかもしれません。
そうした表面に現れた活動の背後あって彼ら学生たちを暖かく見守っている方々がおられます。協力企業の経営者の方々と毎日新聞をはじめとする支援者の方々です。
目に見えないところで学生たちひいてはSカレを支えて頂いているその方々には、お礼の言葉もありません。最後になりましたが、これらの方々にSカレ代表者として、あらためてこの場を借りて、それらの方々に感謝の気持ちを表したいと思います。
Sカレ委員長
流通科学大学学長・日本マーケティング学会会長
石井淳蔵
学生も、企業もワクワク
Sカレは、未来のマーケターの育成に向けた、実践的でありつつ実験的な教育プログラムです。そもそものきっかけは、2005年に実施した立命館大学(前任校)西川英彦ゼミと流通科学大学清水信年ゼミとの対抗ゼミについて、清水先生と居酒屋で実施した反省会にあります。実は、対抗ゼミでは、審査企業から評価されましたが、実際に商品化検討までには至らなかったのです。そこで、ユーザーのアイデアをもとに商品化できる『空想生活』のプラットフォームを利用すれば解決できるのではないか、というアイデアが生まれました。空想生活を運営する「エレファントデザイン」の西山浩平社長に電話すると、即答で支援の了解をいただき、そして、豊岡の鞄メーカーさんも紹介いただき、2006年に2つのゼミでSカレを始めることができました。そこから、メーカーさんや企業のご支援、そして参加ゼミの努力のおかけで、規模が大きくなり、今日に至りました。
こうした展開の中では、技術を学習する方が良いのではないかということで、学生と一緒にバスでメーカーさんを訪問したり、イベントを東西に分けて開催したが盛り上がりにかけてしまったり、Sカレの運営を教員から経験者である4年生の「学生委員」に依頼することで、増えるテーマや学生数に対応できたり、参加学生同士の交流促進のため学内施設にほぼ全員で宿泊したり、毎日新聞社さんが共催に入ってくださったり、試作品の資金を得るためにクラウドファンディングを実施したり、デザイン水準を上げるためにデザイナーさんに業務委託したりするなど、商品化達成の結果や、学生の取り組み状況をみて試行錯誤しつつ、改善してきました。
10周年を迎える今年は、SカレのプラットフォームをSNSのFacebookに変更しました。Facebookは、参加者の既存の友人とのネットワークや、スマホでの使いやすさなどの利点があります。今後もまだまだ変わっていくでしょう。
ぜひ、Sカレに何かのカタチでご協力いただければ、うれしいです。学生はもちろん、企業の方も、ワクワクするような経験ができると思います。今後も、なにとぞ、よろしくお願いいたします。
法政大学経営学部教授 西川英彦
イベントを通じ、自分自身も成長
Sカレの話を何かの折に聞いていただいたり、実際に秋カンや冬カンをご覧いただいたりした方からは、参加している学生さんが羨ましいというコメントをよく頂戴します。運営をしている立場ながら、私も本当にそうだなと思います。
最初は西川先生のゼミに胸を借りる形での2ゼミ対抗イベントでスタートしたものが、他の大学ゼミのご参加や企業のご支援もどんどん増え、「Sカレ」という名前もつけられて、他に類をみないほど高い次元での競争が展開される大学生商品企画イベントに育ってきました。実学としてのマーケティングを体得するという点で、このような機会を持っている参加ゼミの学生たちは本当に恵まれていると実感します。
私にとっても、この10年を通じて得た経験やノウハウを大学教員としての様々な活動領域で活用しているという点で、非常に有意義な時間でした。多くの方々のご支援によって成立しているSカレには、指導している学生だけでなく自分自身も育てられていると思います。関係者の皆様には、今後ともご支援とご指導を賜ることができましたら幸甚でございます。なにとぞよろしくお願いいたします。
流通科学大学 商学部 清水信年
「Sカレに寄せて」『毎日新聞Sカレ2015特集ページ』(2015年11月26日公開)
>毎日新聞Sカレ2015特集ページ