私は大学を卒業後、アパレルメーカーで営業職や新規事業に携わりながら、大学院でマーケティングについて学びました。そして、パリのESCP EUROPE(経営大学院)への留学を機に、「世界で戦えるブランド」を本格的に意識し、 インターネットが急速に普及し始めた状況も踏まえ、ムジ・ネット株式会社へと転職しました。
ムジ・ネットは、無印良品を展開する株式会社良品計画のウェブ事業を担当する会社です。無印良品では、従来から消費者の意見を商品開発に取り入れてきましたが、さらにインターネットの活用により、双方向に意見を交わす商品開発のプロセスにまで広げ、「体にフィットするソファ」 などのヒット商品を開発。後に「クラウドソーシング」 と呼ばれる手法であり、これは世界的に見渡しても先駆的な成功事例といえます。
そして、2004(平成 16)年に博士号を取得後、 研究者の道へと進み、それまでの経験を生かした「ユーザー・イノベーション」の研究に取り組み始めます。ユーザー・イノベーションとは自らの利用のため消費者によって商品が生み出される概念で、当時、世界的に見ても新しく、画期的な分野でした。私が選んだ具体的な研究テーマは、 ユーザー・イノベーションがもたらす市場成果に関する研究です。
最近では、多くの消費財企業が新製品開発のプロセスにおいて、ユーザー・コミュニティーの創造性に注目し、活用し始めています。ある時期まで、このようなパラダイム・シフトが非常に有望であることは認められながらも、「ユーザー創造製品」の実際の市場成果を「デザイナー創造製品」と体系的に比較する、という研究は存在しませんでした。私の研究はこの空白を埋めるもので、無印良品から入手した、ユーザーとデザイナー(開発者)それぞれ同時期のアイデアによる製品のデータセットを比較検討しました。 その結果、累計売上高や粗利益、製品寿命といった重要な市場成果指標において、より高い新規性を持つといわれるユーザー創造製品が デザイナー創造製品を大きく上回る事実が明らかになっています。
この調査については限界や課題も見られますが、新製品開発プロセスにユーザー・アイデアを統合する意義を訴えていることは確かです。 今後は、ユーザー創造製品が消費者にもたらすコミュニケーション効果、あるいはユーザー・イノベーターと3Dプリンターなどを使い楽しみながら開発する「メイカーズ」といえるユーザーとの違いなど、ユーザー・イノベーションのメカニズムをさらに突き詰め、日本の企業や起業家が活用できる理論を提示したいと考えています。
こんな研究室です
修士課程の留学生、社会人院生、博士課程の院生とともにゼミを実施しています。ユーザー・イノベーションやデジタル・マーケティング、デジタル・コンテンツなどをテーマに研究を進め、2015(平成 27)年度は、全員が日本マーケティング学会のカンファレンスでの報告を果たしています。ゼミ自体が「共創」の場であり、外部の企業の方々とのコラボレーションなどを含め、オープン・イノベーションを心掛けています。
「法政大学大学院の先端研究:これからの『共創』の時代に、 ユーザー・イノベーションの理論を提示する」『法政大学大学院入学案内 2017』(2016年6月8日公開)
>大学院入学案内2017