paper 2011.1.10

「多様性のマネジメント:無印良品のクラウドソーシング」『マーケティングジャーナル』

 多様な人々、まさに「群衆」(Crowds)が、企業内部の専門家の意見よりも優れているという現象が生まれている。個人の知恵を超えた集団での知恵である。「ニューヨーカー」のビジネスコラムニストであるジェームズ・スロウィッキーは、「群衆の知恵」(The wisdom of crowds;邦題『「みんなの意見」は案外正しい』)という書籍で、群衆による「予測」が優れている事例を、選挙の投票結果の予想をはじめとして多くとりあげ、こうした現象を指摘した(Surowiecki 2005)。

 こうした事実は、企業にとって新しい資源の可能性を示唆する。特定の企業や研究機関、個人などの外部資源を活用する「アウトソーシング」の手法とは異なる、群衆という新たな外部資源の活用である。デジタル関連の雑誌「ワイアード」のエディターであるジェフ・ハウは、同誌において「クラウドソーシング」と名付けた。彼は、クラウドソーシングを「普通の人々が、コンテンツの創造や問題解決、企業の研究開発をするために、彼らの余剰能力(スペアサイクル)を使うこと」と説明した(Howe 2006)。クラウドソーシングは、予測だけでなく、新製品開発などの「問題解決」にも有効なのである。

 近年のインターネット技術の発展に伴い、クラウドソーシングによる問題解決の有効性を支持する多数の事例やその研究がグローバルに生まれている。アディダス、BBC、ボーイング、BMW、デル、エレファントデザイン、IBM、P&G、パナソニック、ローソン、良品計画、ヤマハなど、クラウドソーシングは多数の地域そして多様な産業で見られる(Poetz and Schreier 2010)。

 さらにいえば、事例研究だけではなく、クラウドソーシングが伝統的な手法と比べて販売実績やアイデアの新規性、顧客便益の点で成果があることも実証されている(小川・西川2006、Ogawa and Piller 2006、 Poetz and Schreier 2010)。だが、そもそも、なぜクラウドソーシングが有効性を発揮するのかという根本的なメカニズムは、充分には明らかになっていなかった。

 こうした中、ミシガン大学教授で複雑系、政治科学、経済学を専攻するスコット・ペイジは、群衆のもつ「多様性」に着目し、多様性がもたらす有効性について数理的な理論を構築することにより、クラウドソーシングにおいて有効性が生まれるメカニズムを明らかにした(Page 2007)。彼の貢献は、統計物理学の計算手法や、数学の道具立てである写像、集合などの概念を、日常の意思決定を考える枠組みとして拡張したことにあたる。その結果、クラウドソーシングが有効性を発揮するメカニズムと、そのために必要な課題が見いだされた。それは、多様性をいかにマネジメントするのかという課題である。

 そこで、本稿では、クラウドソーシングにおける多様性のマネジメントについて、無印良品のクラウドソーシングの事例分析を通して考察を行う。このことが、本稿の目的となる。無印良品のクラウドソーシングは有効性を発揮しており(小川・西川2006、Ogawa and Piller 2006)、2000 年より、すでに40 を超えるクラウドソーシングのプロジェクトを継続的に実施しており、分析対象としては適していると考える。

 以下、本稿では、クラウドソーシングの先行研究のレビュー、そしてPage(2007)によるクラウドソーシングの有効性を説明するモデルとその課題を確認した上で、無印良品のクラウドソーシングの事例分析を行い、課題に対するマネジメントについて考察する。おわりに、本稿での発見を整理し、まとめを行う。

西川英彦・本條晴一郎(2011)「多様性のマネジメント:無印良品のクラウドソーシング」『マーケティングジャーナル』Vol.30 No.3, pp.35-49.

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