column 2015.9.3

「社名変更の意味 ― 価値生むきっかけにも:IKEUCHI ORGANIC(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【図・写真】TOKYO STORE

【図・写真】TOKYO STORE

 ブランドの創設や社名変更が顧客価値を創造することがある。その好例が、タオルなどを製造するIKEUCHI ORGANIC(愛媛県今治市)だ。

 同社は、1953年に池内タオルという社名で創業した。他社製品のタオルハンカチのOEM(相手先ブランドによる生産)分野で成長していた。

 OEM製品では自社名を出せないため、99年に物産展への出展を契機に「IKT」という自社ブランドを立ち上げた。徹底的にオーガニックにこだわり、3年以上農薬や化学肥料を使わない有機栽培であること、遺伝子組み換え種子でないこと、そしてフェアトレードであることを掲げた。

 2002年にはニューヨークのホームテキスタイルショーで表彰され、北米での評価や開拓が先行した。03年に風力発電によって製造する「風で織るタオル」を発売。だがその直後に売り上げの7割を依存していたハンカチ問屋が倒産。同社の経営も悪化して民事再生法の適用を申請した。これをきっかけにOEMビジネスから脱却、売り上げ1%に満たない自社ブランドでの再生を目指した。

 その後も欧米の展示会に出展し、販路を拡大。こうしたなか、13年に創業60周年を迎え、取引のあったデザイナーのナガオカケンメイ氏に依頼し、次の60年のコーポレート・アイデンティティーを検討した。複数あったブランドを「IKEUCHI ORGANIC」というブランドに統一し、社名も同名に変えようという話になった。

 「その名前であれば、100%オーガニックにしないとおかしい」(池内計司社長)。それまでオーガニック製品の扱いは92%であったが、100%に徹底した。タグにも化学繊維を使わないようにした。さらに、名前からタオルが外れたことで、寝具やキッチン関係など事業領域を拡大するという構想にまで広がる。

 全製品がオーガニックとなった14年3月に社名を変更。この姿勢を発信するために、同時に東京・南青山に旗艦店を開設した=写真。洗濯機や乾燥機が店内に設置され、顧客は洗濯後のタオルの風合いを確認できる。製法や技術の自信に裏付けられたサービスだ。京都、福岡にも直営店を出店し、社長自ら企業姿勢を伝えるセミナーも開催する。こうした姿勢に共感した顧客が増えていった。

まさに名に恥じぬようにすることが深い信頼を築いた。名前は社会への宣言でもある。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2015)「社名変更の意味 ― 価値生むきっかけにも(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2015年9月3日付け、p. 15