column 2015.8.6

「スペースマーケット ― 球場で社員総会いかが(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 組み合わせの妙が新市場をもたらす。その好例が、空きスペースの時間貸しサービスを手掛けるスペースマーケット(東京・新宿、重松大輔社長)だ。

 「映画館で結婚式2次会」「渓谷を走る電車でパーティー」「歴史遺産の邸宅で企画会議」「米国球場で社員総会」など魅力的な提案がサイトに並ぶ=写真。単にスペースを紹介するだけでなく、これまでにないユニークな使い方や、楽しみ方の提案までを行う。

 「笑っていいとも!」で有名なスタジオアルタで社員総会を実施した企業がある。このスペースは、1時間4万5000円からで、最低2時間から利用できる。利用した人材派遣会社、ビースタイルの伊藤愛さんは「テレビで使われているスタジオということもあって、プロジェクターや音響なども最高の状態でとても満足できた」と語る。

 妻のために映画館を貸し切ってサプライズ誕生パーティーを実施した個人もいる。2014年4月から始まったスペースマーケットのサイトには、企業や個人のもつ遊休スペースや利用時間外の場所が、3500ほど掲載されている。

 オフィスの土日のセミナールームや結婚式場の平日昼間、早朝・夜間の水族館や飲食店、廃校、寺、古民家など、これまであまり貸し出しの対象とならなかった意外なスペースが多い。

 ユーザーはエリアや人数、会場タイプだけでなく、利用目的で探せる。イベント、会議・研修、結婚式、パーティー、ロケ撮影、個展・展示会、演奏・パフォーマンスなどの利用目的があり、「こんな使い方もあるのか」とイメージをかきたてる。利用者の感想だけでなく、どのように利用したかというコメントも掲載されており、参考になる。

 スペースを貸す企業や個人は、無料で掲載でき、成約すれば副収入を得ることができる。顧客とのやりとりの履歴や、決済・入金、予約受け付け、稼働率、売り上げなどを一元管理できるサービスも利用できる。スペースマーケットは、成果報酬として売り上げの20~35%を得る仕組みだ。

同社は単に空きスペースと利用者とのマッチングだけではなく、「こんな場所で、こんな使い方もあるのか」という、新しい需要創造を絶えず意識して事業を行っている。重松社長は「スペースとコンテンツの組み合わせで、新しい場の価値と、新しいコンテンツ価値を同時に生み出す」という。まさに組み合わせが重要である。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2015)「スペースマーケット ― 球場で社員総会いかが(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2015年8月6日付け、p. 15