【図・写真】ツイートするスタッフ
西川英彦(2015)「消費者へ積極対話 ― オルビス『つぶやき』に返信(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2015年7月16日付け、p. 15
企業からの消費者への積極的対話によって顧客価値を創造する。化粧品の企画販売を手掛けるオルビスはこうした試みを積極的に手掛けている。ツイッターでの消費者のつぶやきに対して、公式アカウントから返信するというアクティブサポートだ。
例えば、オルビスの化粧下地に関して好意的なつぶやきを見つけたサポート担当が、「化粧下地を気にいって頂きありがとうございます! 突然失礼いたします、オルビスの森下です。下地はどちらをお使いでしょうか? メイクやスキンケアのことで気になる点があれば、お気軽にお声がけくださいませ♪」と返信。感謝を伝えるだけでなく、対話が続きやすい工夫をしている。実際に対話は続き、情報が第三者にまで広がっていくことになった。
このほか、オルビスの店舗でムーミンのポーチが売り切れという人には、通販サイトに在庫がある旨を伝えた。ファンデーションの色目に不満を感じていた人にはその理由を説明した。
こうした取り組みを始めたのは、通販の手法がインターネットになったことで、電話注文での会話や店頭での接客のような相手に応じた細やかな応対がしにくくなり、サービスの低下につながると考えたからだ。
阿部嘉文社長はネット通販においても「固まりとしてのお客様ではなく一人ひとりのお客様と接する意識、人肌感のあるコミュニケーションが重要」と強調する。
そのため、3つのルールを持っている。まず、あくまでコミュニケーションが目的で売り込みをしない。次に適度な距離感を保つ。全てに返信するのではなく、その内容や過去の発言をみて、返信するかどうかを決めている。最後に、日常的な好感度を高めることを意識する。絵文字や記号も、相手の利用度合いに合わせて使用する。
その結果、問い合わせる前に離脱しそうな顧客をつなぎとめたり、ブランド理解や正しい情報を広めたり、第三者への波及効果につながるなど、顧客価値を創造している。
ただどの企業も安易に模倣できるわけではなさそうだ。同社では電話やメールでの問い合わせに対して返事をしてきた経験をもつ20代から30代のスタッフ4人が対応し、水準は高い。ITサポートの業界団体、ヘルプデスク協会日本法人の2013年度の問い合わせ窓口格付けで3つ星である。だからこそ、つぶやきから顧客の気持ちを読み取り、的確に返信できるのだ。(法政大学経営学部教授)