column 2015.6.25

「ピップエレキバンM ― 消費者の経験を意識(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【図・写真】年齢関係なく人気のあるメントールを入れた

【図・写真】年齢関係なく人気のあるメントールを入れた

 多段階の効果が、新市場創造の可能性をもつ。オンラインゲームやアトラクションなどの体験型サービスでは、ユーザーが何度もワクワクする仕掛けは常識だが、製品においてもそれは可能だ。その好例が、ピップの「ピップエレキバンM」である。

 1972年に生まれた磁気付きばんそうこう「ピップエレキバン」は、製造元のピップを大きく成長させた看板製品だ。だがロングセラー製品ゆえに大きな改革ができず、売り上げの減少が続いていた。

 ピップは2011年に再生に向けて課題を整理した。新製品を追加しても既存製品と食い合いを起こしていたほか、使うのをやめてしまう人が増えているのが減少が続く原因だった。

 なぜ新規顧客が増えないのか。調べると、未利用者はエレキバンを「年配向けで自分向けではない」とか「かぶれてしまいそう」「効果が分からない」などと感じていた。中止した人も「効果が感じられない」「肌がかぶれる」「即効性がない」と似たような意見だった。中止した人の6割は外用鎮痛消炎剤に流出していた。

 また肩こり製品の購入ユーザーの6割は複数の製品を併用しており、新しい効果訴求への感度が高いことも分かった。

 まずは顧客の幅を広げるため、広告の対象を若く設定し、40代女性をターゲットに共感できる利用シーンや効能表現に変えた。即効性を感じられる製品の開発にも着手した。同社の調査では外用鎮痛消炎剤の中でも、メントール系製品は年齢に関係なく根強い人気があることが分かった。

 そこで、メントール入りのばんそうこうを開発することにした。12年に発売した「ピップエレキバンM」は使い始めにメントールで体感できる効果を出し、従来のエレキバン同様に磁気でじっくり血行改善をはかる二段構えの商品だ。

 発売前に肩こり製品併用層に調査すると、利用意向が9割と非常に高かった。テスト販売でも既存製品と競合せず、40代が獲得できていた。2段階の効果で下降トレンドからの脱却を果たした。13年には製品全体のリニューアルもあり、11年ぶりに売上高が前年を上回った。

 ケースでみたように、多段階効果への着目は、消費者の経験プロセスを意識することから始まった。すなわち多段階効果の設計とは、製品を通して、消費者の経験をデザインすることにほかならないのだ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2015)「ピップエレキバンM ― 消費者の経験を意識(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2015年6月25日付け、p. 15