column 2015.11.2

「自社キャラクターの活用(上)― 権利帰属、ファンと育てる:アイカツ!(日経MJヒット塾)」『日経MJ』

【写真】ゲーム機本体 

【写真】ゲーム機本体 

 自社キャラクターをうまく育成すれば、ヒット商品につながる可能性をもつ。2週にわたって、2つのケースをみていこう。今週は日経MJヒット塾研修で訪問したバンダイの業務用ゲーム「データカードダス アイカツ!」のケースだ。

 アイカツは、「アイドル活動」の略で、アイドルの卵がファッションセンスやダンスの腕を磨きながらトップアイドルを目指してオーディションに挑むという設定。商業施設などに設置したゲーム機で遊ぶ。

 1回100円で1枚のカードを入手。トップスやボトム、靴、アクセサリーの描かれた4枚のカードをゲーム機本体に読み込ませ、自分の好きなキャラクターの服装をコーディネートする。キュートやクールなどのテーストでまとめると得点が高い。

 オーディションでは、曲に合わせてボタンを押すリズムゲームでキャラクターにダンスをさせる。ダンスのうまさと、コーディネートのセンスで採点され、オーディションの合否が決まる。センスを上げるためカード収集が促進され、累計出荷数は2億枚を超える。

 アイカツ!のキャラクターはバンダイナムコグループが自社で開発したもので、一般的なキャラクタービジネスと大きく異なる。一般的には小説や漫画が大人気となりテレビアニメや映画でヒット。玩具メーカーが許諾を受けて商品化する流れだった。商品化リスクは低いが、他社に権利を奪われるリスクは高い。

 だが、近年は小説や漫画の人気を得るため、テレビや映画、商品化も同時に進める「メディアミックス」手法がとられる。

 テレビや劇場の制作リスクが高いため、玩具メーカーが商品化権利と引き換えに制作費などを負担する。テレビアニメのヒットが不確定な段階での商品化決定はリスクが高い。実際に番組の人気が出ず販売不振に陥る、玩具開発が間に合わない、番組と連動できないなどの問題があった。

 こうしたリスクが高い状況を受け、アイカツ!では、キャラクターを自社開発して、ビジネスを変えた。データカードダス アイカツ!が人気となるよう、メディアミックスを組んだ。

 テレビアニメ化のリスクは高いが、ゲーム機や玩具の訴求はできる。アニメ人気が不確定な段階での商品化だが、時間をかけて、単体でも価値のある玩具開発や、アニメとの連動もしやすくなると考えた。

 2012年10月に業務用ゲームとテレビアニメを同時に開始。アニメはバンダイナムコピクチャーズが制作した。同じ世界観でアイドル養成学校に通う女子中学生がオーディションに臨み、カードでコーディネートをする。主人公たちは「芸能人はカードが命」という。

 11月にバンダイナムコゲームスが制作したカードスキャン遊びが可能なカード付きのニンテンドー3DS用ソフト、小学館からカード付きのファンブックを発売。12月にナムコがカード配布もするオフィシャルショップを開設。翌年3月には、カードスキャンできる関連玩具を発売。アイドルブームに加え、グループ内で一気に横展開を図ったことがヒットにつながった。

 立ち上げ以降も、市場調査を欠かさない。消費者ニーズを迅速に反映させるため、業務用ゲームの売り上げを毎日管理し、カード内容を見直したり、アニメも視聴者の反応を見て随時修正を加えたりした。主人公も女児だけでなく母親にも支持されるよう修正した。

 まさに生んだら終わりではなくキャラクターをうまく育成することが肝要だ。

キーワードプラス

 【メディアミックス】ケースのように近年は、ヒット作品を多数のメディアで展開することを指すが、そもそもはテレビ広告や新聞、インターネットなど多様な広告媒体で互いの弱みを補完する手法をいう。いずれも組み合わせによる相乗効果の発揮が重要という点は変わらない。

西川英彦(2015)「自社キャラクターの活用(上)― 権利帰属、ファンと育てる(日経MJヒット塾)」『日経MJ』2015年11月2 日付け、p. 2