【写真】つくれぽ
高評価なら別だが、評価されるのは一般的にはうれしくないだろう。だが、評価される側がうれしい評価システムができれば別で、企業の収益に役立つこともある。その好例が、215万もの投稿レシピが掲載されるクックパッドの「つくれぽ」=写真=である。
つくれぽは「つくりましたフォトレポート」の略で、文字通り掲載されているレシピで作った料理の写真にメッセージを付けてレシピ投稿者に届けることができる機能だ。
つくれぽはレシピ投稿者が「人の役に立っている」という実感を得られ、新しいレシピを投稿しようという動機につながっている。つくれぽを送るユーザーにとっても、料理したレシピの記録となるという動機がある。こうした循環を、同社投稿推進部の中山亜子氏は、「レシピのエコシステム」という。
そもそも厳密には評価システムではないので、点数をつけて評価する機能はない。評価点がつけばレシピ投稿には勇気もいり、低い点数が離脱を引き起こす可能性もあるだろう。ただつくれぽの数の多さが人気レシピを可視化し、結果的に納得度の高い一種の評価となる。つくれぽが多いということは、おいしい上に短時間に少ない食材で安く作れる、作りやすいレシピである可能性が高いからだ。
さらにこれは収益にも貢献する。「今月のつくれぽ100人レシピ」や、800を超えるつくれぽ1000人以上の「殿堂入りレシピ」は、プレミアムサービス(月に税別280円)の登録が必要となるからだ。
つくれぽはどのように開発されたのだろうか。実は登場する2005年ごろ以前から、当時の機能でユーザーは同じようなことを実施していた。クックパッドの日記に投稿レシピで作った料理の写真を載せたユーザーは、レシピ投稿者に感謝と日記に書いたことをコメント。投稿者はその写真を借りてレシピページに掲載し感謝を伝えていた。
同社は、この複雑なやり取りに注目した。背景には「料理が楽しくなる場を演出したい」(中山氏)という思想がある。開発当初の目標はレシピの投稿機能と同様に、つくれぽ機能がユーザーから日常に使われることだったという。実際にリリースからしばらくして、つくれぽの投稿数はレシピ投稿数を超えた。
今回のケースで見たように、ポジティブな循環をもたらす評価システムの原型はすでに身近にあるかもしれない。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2015)「クックパッド『つくれぽ』 ― 好循環生む評価システム(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2015年9月24日付け、p. 15