column 2015.10.15

「クックパッド ― タイムリーに販促支援(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【写真】左・管理画面トップ、右・きてるランキング

【写真】左・管理画面トップ、右・きてるランキング

 メーカーや小売店などの販売担当者にマーケティングの権限や分析ツール、そしてモチベーションを与えることが売り上げ拡大の可能性をもつ。そうした好例として、前回に続き、218万品ものレシピを掲載するサイト、クックパッドを取り上げる。

 2013年2月に始めた「クックパッド特売情報」は担当者が様々な工夫で売り上げを拡大する手法を提供している。現実にはなかなか難しいと思うかもしれないが、クックパッドのツールはこうした工夫を凝らしやすくしている。

 同社のサイトでユーザーが郵便番号を登録すると、近所のスーパー、八百屋、魚屋などの特売情報が無料配信される。会員数は430万人に上り、参加店舗は1万2000軒を超える。

 小売店の担当者は、スマートフォン(スマホ)でリアルタイムに、特売商品の写真やお勧めコメントの掲載が可能だ。チラシには載らない新鮮な生鮮の入荷情報や、惣菜の調理中の情報が配信できる。

 配信後、現場担当はスマホで何人に情報が届き、何人に見られたかがわかる。閲覧者の住所分布まで分かり、効果を検証できる。

 さらに、担当者はスマホで料理のトレンド情報も簡単に把握できる。クックパッドでのユーザーのレシピの検索ワードに連動したもので、いま作りたいと思っている「きてるランキング」を確認できる。

 今年1月下旬、東海地方で「甘酒」が総合の1位に急上昇した=写真右。テレビなどで取り上げられて話題になっており、それを裏付けるデータだった。

 東海地方のある店舗の担当者は、特売情報や店舗販促で甘酒を強化。その結果、1~2月の甘酒の売り上げは前年比5割増となった。こうしたトレンドへのタイムリーな対応は、1カ月前に内容を決定する紙のチラシでは難しかった。

 スマホでは一緒にレシピ検索されるワードも分析できる。例えば「おでん」に「オイスターソース」が増えていることがわかれば、店頭での陳列や販促の工夫につなげることができる。

 同社はさらにモチベーションをあげる仕組みを提供している。ユーザーがスマホで店舗の担当者に簡単に感謝を送れる「応援メッセージ」というサービスだ。わざわざ店舗でのご意見箱には書かないが、スマホであれば移動中にコメントできる。前回取り上げたレシピ投稿を循環させる「つくれぽ」の応用だ。こうした応用は同社の強みだ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2015)「クックパッド ― タイムリーに販促支援(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2015年10月15日付け、p. 15