column 2015.11.14

「行為に沿うデザイン ― 利用者の声、新たな商機:プロペラデザイン(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【図・写真】プロペラデザインの「タンブラー」

【図・写真】プロペラデザインの「タンブラー」

 巧みなデザインが新しい顧客価値を生むことがある。その好例が、デザインコンサルタントのプロペラデザイン(東京・江東、手槌りか代表)だ。

 2003年に創立の同社は、女性5人が商品デザインからパッケージ開発、販売コンサルタントまでを手掛ける。グッドデザイン賞やiFデザイン賞など国内外の受賞歴をもつ。

 プロペラデザインは依頼を受けたクライアント企業の期待を上回る付加価値をもたらすデザインの提案にこだわる。ユーザーの行為や気持ちを意識してデザインを行う。

 洗面所にあるコップは、うがいや歯磨きの後に、水がうまく切れず、汚れが残ることがあるだろう。同社は、自然と乾くようにするデザインはないだろうかと考えた。取っ手を台にして置くと、カップに残った水が流れるデザインにして、生まれたのが、「タンブラー」=写真=だ。

 風呂場の床を洗うときに、床と壁のつなぎ目が洗いにくい、さらに、掛ける場所がなく乾きにくいという問題があった。底だけでなく、側面にも植毛し、自立でき乾きやすい「バス床ブラシ」が生まれた。

 野菜を洗う際も、普通のブラシやタワシだと、野菜の形に合わせて、動かさなければいけない。手に収まるサイズで、野菜の形に沿って本体が曲がり、ジャガイモ・ニンジン・ゴボウなどの土泥を取るデザインを考え、自立する「野菜洗い丸まるブラシ」が生まれた。

 カーペットや床の細かいゴミをとるローラーは、使いたい時に、すぐに見つからなく困る。そこで、ゴミ箱の縁に引っかけられるデザインにして「カーペットクリーナー」が生まれた。

 いずれも、自然に沿う行為をもとに、デザインにより付加価値をもたらしている。そのため、説明しなくても、自然と使え便利さを感じることができる。

 プロペラデザインはデザインするだけでなく、その点検も絶えず行う。自社でデザインした商品を販売できるように、アンテナショップ「ALL」をオフィスに併設した。商品デザインやパッケージ、販売方法について、ユーザーからの生の声や反応を、自ら把握できる。

 こうした調査は重要だろう。単に付加価値の効果を確認できるだけでなく、新たな価値が加わったことで、ユーザーの行為や気持ちを変化させ、新たな商機が生まれる可能性があるからだ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2015)「行為に沿うデザイン ― 利用者の声、新たな商機(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2015年11月14日付け、p. 15