【図・写真】プラスの「デコラッシュ」
本来の商品開発テーマからみると中心から外れた周辺部の観察で発見したことが、新市場創造の可能性を持つことがある。その好例が、文具大手のプラスが2011年に発売したデコレーションテープ「デコラッシュ」だ。
そもそもこの商品は修正テープの開発から出発した。そのため09年秋に、生徒たちが修正テープを普段どのように利用しているのかを把握しようと、女子中高生の使用済みのノートを20冊集めた。
ところが集めたノートには、各文章の初めには星やハートなどのマーク、数学の公式など学習の重要なポイントには果物のイラストが描かれていた。デコレーションが日常化している女子中高生の生活スタイルに開発担当は驚いた。
イラストを描くことは修正テープの開発には関係なく、普通なら見過ごされるが、この周辺観察での気づきとそもそもの中心テーマがうまく結びついた。修正テープの機能を使って、ノートの修正も飾り付けも1つでできれば楽しく実用的だとの発想が浮上した。
他の開発テーマをもつチームが観察したら、異なる解決法になった可能性も十分にあるのだ。
改めて市場を見ると、当時カラフルな柄のついたマスキングテープや、様々なデザインのシールが売れていたが、それらより優位にできる可能性があった。マスキングテープはカラフルな柄が何度も繰り返された単調なものが多い。デコラッシュではノートの端から端まで使っても、同じ柄は出てこないように、同じ柄の登場間隔を設定した。
シールは連続的な貼り付けや、ペンケースでの持ち運びには適していない。さらに授業用にカラフルなシールとしてだけ使うのは、抵抗があるだろう。デコラッシュは、修正テープとの共用なので、こうした問題もなくなる。それだけでなく、シールのように1つの柄だけでも使えるように柄と柄との間を少し空けたり、おまけ柄も入れ込んだりと工夫した。
こうしてデコラッシュは、11年の発売から累計1500万本を超える大ヒット商品となった。周辺的な観察と開発テーマとの意外な組み合わせが、修正テープの資源も生かしつつ、新市場を創造した。
だが話はこれで終わりではない。女子小学生に予想以上に売れたのだ。彼女らは、手紙や交換日記に使っていた。この現物の観察は、さらなる市場創造の可能性もあるのだ。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2015)「周辺観察が重要 ― 修正テープが大化け(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2015年5月14日付け、p. 15