column 2015.4.6

「競合の活用(上)― 相手の一手予測し、逆手に:スリムウォーク(日経MJヒット塾)」『日経MJ』

【写真】足指が広がる気持ちよさをアピールしヒットした

【写真】足指が広がる気持ちよさをアピールしヒットした

 競合の活用――。競合など存在しないに越したことはないと思われるかもしれない。だが、競合をうまく活用すれば、ヒット商品につながる可能性をもつ。2週にわたって、2つのケースをみていこう。

 今週は企業研修のMJヒット塾第3期で訪ねたピップのヒット商品を取り上げる。脚のむくみをケアし、美脚を保つ着圧ソックスの「スリムウォーク」だ。

 日中にはく「昼用」しかない市場で首位だったスリムウォークは、競合相手が2008年に発売した「夜用」製品に抜かれ、2番手に転落した。ピップも市場ニーズを理解していたが、昼用とのカニバリを恐れて静観していたのが原因だ。

 ピップは首位奪還に向け大きく戦略を転換した。まず、競合が切り開いた夜用市場への参入を決定。店頭で存在感を示すため、競合と同じラインアップをそろえ、製造工程を省くなどしてより低価格で発売した。

 さらにユーザーの競合製品の使用調査を通して、今までにない差別化ができるアイデアに気づく。ユーザーは競合品に対し、素材がゴワゴワして寝る時に不向きだったり、きつくて履きにくかったりといった不満を持っていたことをつかんだという。そこから、我慢が伴うケアではなく、ラクして深く眠り、ケアしたいという本音を読み取った。

 その結果、柔らかなはき心地で着脱しやすく、かわいい部屋着にもなる製品を開発。生理用品市場のように、一目で夜用とわかるパッケージデザインにして、10年に「夢みるここちのスリムウォーク」を発売した。モコモコ素材の製品も加え、11年には数量シェアで競合と並ぶまでになった。

 ピップはこれらと並行して、さらなる躍進のために未開拓の新市場を探索していた。有識者調査から外反母趾(ぼし)や扁平(へんぺい)足など、10~20代の足の悩みが、30~40代以上に深刻だと分かった。見た目を追い、足の負担を軽視した靴選びが理由だ。

 調査や行動観察で、OLはスタイルを良く見せるためにヒールの高い靴をはいていることを知る。通勤や仕事中にハイヒールを脱いだり、帰宅時に足指にむくみを感じている人がいた。

 ピップはOLのライフスタイルに適したケア用品という未開拓市場を発見。手間いらずで、気持ちよく、かわいくケアできる方法を考え、帰宅後足指を広げて解放できる「足指セラピー」を12年に発売した。パンパンになった足指を「まるでクリームパン」と表現した女性のつぶやきをPRに反映し、好評を博した。

 こうした開発過程でピップは競合の次の一手を予測し、その資源を利用することを考えた。同社執行役員の水書邦之氏は「半年後、1年後なら競合は同等のものを投入できるが、製造が難しく供給量には限界があると予測した。競合のCM投下で、新カテゴリーの認知を高めてもらい、来店したお客様の需要を刈り取る作戦を描いた」という。

 半年後に予想した通りに競合が追随してきた。ピップは商品ラインを拡充したうえに、準備した物量で大量陳列し、迎え撃った。こうして金額シェアでもトップを奪還したという。後発・先発のいずれの参入においても、ピップは競合の資源をうまく活用して、ヒットをもたらしたのだ。

キーワードプラス

【先発優位・後発優位】先発優位は、早期参入で新市場の代名詞になるなど後発企業に対し優位に立てることだ。一方、後発優位は先行事例を参考に少ない投資で済むなど先発企業に対して優位に立てる。言い換えると、戦略を間違えば、先発不利・後発不利ともなり得る。

 

西川英彦(2015)「競合の活用(上)― 相手の一手予測し、逆手に(日経MJヒット塾)」『日経MJ』2015年4月6 日付け、p. 2