column 2024.3.22

「新市場創造のカギ 企業とSNSで対話を循環(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 2010年より146回目となる本連載は今回で最後となる。必ず取材することを自分に課し、新市場創造のマーケティングをテーマにミニケースを書いてきた。それらをもとに市場創造のカギとなる2つの企業活動を整理する。

 第1の活動は、新市場創造のネタを発見するために、SNS(交流サイト)や動画サイトなどの流行を把握する「ソーシャルリスニング」である。花王は化粧品関連の投稿を、ワークマンは同社製品を異なる用途で利用している投稿を、日清食品は人に薦めたくなる動画を探索している。いずれの会社も、担当者は1日に2~3時間を費やし探索している。

 第2の活動は、その流行に適応しつつ独自の価値を創造する「創造的適応」である。花王は自社技術をもとにアイドルの前髪をまねる製品の市場を、ワークマンは投稿者と共創し新用途の市場を創造してきた。日清食品は同社のエッセンスとかけあわせユニークな広告を制作してきた。

 こうしてSNSをネタ元にして開発した製品や広告は、バズりやすく、売り上げにつながりやすい。なぜなら、スマホを手にすると、まずSNSなどのタイムラインを開き新しい情報にそこで出合うという「タイムライン生活者」が台頭しているからである。社会全体では約2割、10~20代の女性では約6割、男性でも3割強も存在する。

 上市後にSNSでの反応をみつつ、製品の改善や新製品の追加が可能である。このように循環していくことで新市場創造をしやすくなる=図。

 なお、一般的な市場創造の議論では、企業と流通や競合、他メディアの顧客も含めた市場との対話を対象にするが、近年の特徴を端的に強調するために、あえて企業とSNSとの対話を対象にしている。

 本連載は1カ月前後に1回の頻度で締め切りが訪れ、毎回新しい切り口のネタが見つかるか不安であった。今回解説したカギのように、私もSNSなどをきっかけに取材し、独自の視点で分析できないか頭をひねるうちに、何か見つかり記事にできた。この定期的な創造の機会が研究や講義にも大いに役立ち、この長期連載に感謝している。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2023)「新市場創造のカギ 企業とSNSで対話を循環(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2024年3月22日付け、p.9.