自社製品で複数の「補完財」をつくることが、新市場を創造する。その好例が、サントリーの国産ジン「翠(SUI)」=写真=のケースである。
補完財とは「食パンとバター」「ゲーム機とゲームソフト」など、互いに補完することで価値や需要を高める製品・サービスのことである。
そもそもジンの市場規模は酒類全体のわずか0.2%で日本ではほとんど飲まれていなかった。バーのイメージが強く、ジントニックなどカクテルで飲むものであった。
そんな状況下、サントリーは2017年に発売した高級ジン「六(ROKU)」を展開する中で、ジンのソーダ割りが和食にも合う食中酒としての需要があることを発見した。
そこで同社はジンソーダをハイボールやレモンサワーに次ぐ「第3のソーダ割り」と位置づけ、新市場の創造を目指した。その具体策として居酒屋や自宅での食事に合う値ごろな価格の翠を20年に発売した。日本の食卓になじみ深いユズ・緑茶・ショウガという3種の和素材を使用した爽やかなジンであった。
発売時期が新型コロナウイルス禍に重なり、プロモーションは中止したものの、店頭販促を強化し、家飲み用によく売れた。CMなどでの「それはまだ、流行っていない」というキャッチコピーも話題となった。
その結果、約1万5千店の小売店、約2万4千店の飲食店が取り扱った。3万ケースの販売計画を立てていたところ、その3倍を超える9万5千ケースという実績をあげた。
ただ、瓶で買うのはハードルが高いので、22年には手軽に飲んでもらえるように、そのまま飲める缶入りの「翠ジンソーダ缶」を発売した。
こうして、瓶・缶・飲食店の三位一体戦略が完成し、互いに補完し、相乗効果をもたらし、新市場を創造してきた。それを裏付けるように、同社のジンの売り上げは、21年の27億円から22年は120億円を達成した。
瓶・缶・飲食店での飲酒は、一見すると競合する「代替財」ともいえる。だが、同社は3つのソーダ割りで、三位一体の戦略を成功させてきた。
皆さんも、自社製品・サービスで補完財を再検討してはどうだろうか。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2023)「3つのソーダ割り 相乗効果で新市場を創出(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2023年12月1日付け、p.11.