【図・写真】LiLzの「リルズゲージ」(ピンクの機器)=同社サイトより
ネットにつながるIoT製品は電気が必要だが、近くに電源のない場所も少なくない。その課題を「電源レス」で解決する機器の好例が、スタートアップ、LiLz(リルズ、沖縄県宜野湾市)のIoTカメラ「リルズゲージ」だ。この電源レスは新市場を創造する可能性を秘めている。
製鉄・化学プラントや発電所などでは計器の日常点検が不可欠である。毎日深夜0時にこのためだけに出社する人もいる。計器点検の87%は人が巡回する目視で熟練者の五感を頼りにしているという。
一方、計器の数値を自動で読み取り、ネット上でデータ管理できるIoTカメラも存在する。だが、多くの現場には電源がなく、取り付けるには新たな電源工事が必要なため、このカメラの導入を阻んでいる。充電式もあるが、数十日程度で充電が必要なものが多く、手間が大きい。
こうした問題に対し、同社は待機電流が小さい超低消費電力のIoTカメラを開発した。フル充電で1日3回の撮影を3年間、持続できる。モバイルバッテリーや電源をつないだ充電ケーブルの着脱時にカメラの固定位置が微妙に動かないように、マグネット接点による充電が可能だ。
カメラの購入費が約10万円かかるが、携帯電話回線の通信費込みで1台月額数千円で利用できる。すでに250社に3500台を提供する。185台導入した施設では日常点検にかかる時間を以前より70%減らせた。特に計器の数値を転記する作業の削減効果が大きいという。
円形の針式や電卓画面のような7セグメントディスプレー型、温度計のようなレベル型など様々なタイプの計器を読み取れるほか、それらの計器が複数あっても同じ画像に収まれば1台のカメラで監視できる。フラッシュで暗がりの中や望遠レンズで遠くの計器を監視することも可能だ。
さらにこの電源レスIoTカメラは新たな用途も創造する。現場に電源がないのは、計器の周辺だけではないからだ。駐車場の混雑や河川水位、害獣のわな、農作物の色づきなどの確認など、応用範囲は広い。電源の課題を突破することの意義は大きい。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2023)「電源レスIoTカメラ 工場から農場まで応用広く(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2023年6月30日付け、p.15.