column 2023.5.19

「タイムライン生活者 企業に意識改革を迫る(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 「タイムライン生活者」という新しい消費者層が若者を中心に台頭し、企業のコミュニケーションのあり方に変更を迫る。博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所の上席研究員の森永真弓氏らの調査を紹介する。

 タイムライン生活者とはスマホを手にすると、まずSNS(交流サイト)などのタイムラインを開き新しい情報にそこで出合うという層である。社会全体では約2割、10~20代の女性では約6割、男性でも3割強も存在する=図。

 タイムラインの情報が、彼らの行動のきっかけとなる。スポーツや映画などイベントへの関心も、タイムラインで感想をいくつか見かけることだという。そのため、事前告知よりも開催中の発信が有効である。美術展はその方針にシフトし成功している。

 このように、タイムラインで何度も、話題となることが重要なのである。企業は、SNSをメディアの一つと位置付けるのではなく、コミュニケーションの基盤に据える戦略が不可欠である。つまり企業もSNSの中に共に住み着くことが大事だ。

 森永氏は、企業に求められることを3つ挙げる。第1に「ポータブル性」である。消費者がタイムラインで共有しやすくするのである。1回のスクリーンショットで、商品名と写真と説明がきれいに収まるかどうかが大事である。

 第2に「ゆだねる勇気」である。企業が、消費者がタイムラインでシェアできる状態を許容しているかである。さらに二次創作を許容しているかも重要である。

 第3に「おもてなし継続性」である。SNSでフォローしてもらった関係の維持である。キャンペーンが終わったらそれ専用のSNSアカウントを閉じる企業も多いが、次回フォローゼロから開始するのは効率が悪い。

 このように企業側の意識改革が求められる。企業はタイムラインでの存在を消費者に許容してもらい、日常的に話を聞いてもらえることが重要である。その結果、タイムライン登場比率が上がるのだ。

 タイムライン生活者ではない役職者が、このことを理解できずに、意思決定するのは大きな損失を招くだろう。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2023)「タイムライン生活者 企業に意識改革を迫る(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2023年5月19日付け、p.10.