顧客との共創モデルの進化が新市場を拡大する。その好例が、サッポロビールの共創を軸にした事業である「ホッピンガレージ」のケースだ。
2012年に顧客の意見をもとにビールを開発する「百人ビール・ラボ」をSNS(交流サイト)上に開設した。開発した3商品は話題性もあり、一般流通で発売したものの、売り上げは縮小していった。「全員が作りたいもの」では、個性の弱い商品になっていた。年に1回ほどの開発だけではコミュニティー維持も大変であった。
こうした中、次の責任者となった土代裕也氏(現ホッピンガレージグループリーダー)は継続的に実施できるモデルを模索し、18年にホッピンガレージを立ち上げた。1人の顧客の企画をもとに、個性的な商品を開発し、月1商品の開発を目指した。
提携企業が持つビール好きの多い食のコミュニティー上で試飲会を告知し、そこでの評価が良ければネット販売した。20もの試作品が開発され9商品が発売された。
新型コロナ禍となり、試飲会もできず、新たな展開を模索する中、土代氏は顧客との共創を通じて提供できたのは「ビールではなく顧客の人生ストーリーを深く味わいながら飲めるというビール体験である」と気づいた。
魅力的な人物を探し出し、その人生ストーリーを味わいやパッケージで表現したビールを開発した。コンテンツと共に届けることでより深くストーリーを味わえる体験を設計し、2年で11商品を開発し隔月で常に新作が届く定期便もスタートさせた。
23年2月からは、このモデルによるビールを社会全体に広げる「ホッピンフレンズプロジェクト」を開始した。自社だけでなく、提携したクラフトビールの各社が、顧客の魅力あるストーリーをもとに独自にビールを開発・製造する。同社はそれらを仕入れ、同じストーリーの自社商品とセットで販売する=写真。
顧客にとっては、より深いストーリーの追体験ができ、飲み比べもできる。ブルワーにとっては、販路が広がる。
このように1つのモデルでは限界も多い。諦めず絶えず見直し、共創モデルの進化を止めないことが重要である。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2023)「1人の人生、複数社でビールに 顧客との共創が進化(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2023年3月31日付け、p.15.