column 2023.2.17

「ウニそっくりの豆腐 関連づけの妙が生む革新:相模屋食料(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 多様な事象を関連づけることが、これまでにない革新的商品のアイデアを創造する。その好例が、豆腐製造最大手の相模屋食料(前橋市)のケースだ。ネット上で「豆腐なのにウニ」と話題の「うにのようなビヨンドとうふ」を生み出した。2022年3月の発売以来、累計380万パックを出荷するヒット商品になっている。

 そのきっかけは、親交のある社長からの「豆腐はシンプルだけど、クセのある味がないから、また食べたいとならない」という一言だと、同社の鳥越淳司社長は言う。

 その言葉と、「クセのある味の極みはウニ」や「魚介系のうまみはだし」であるという鳥越氏の知識が結びつき、試行錯誤する中で誕生した。

 鳥越氏は「アイデアは、知識を入れた上で、会話中や、歩いたり電車に乗ったりしている瞬間に生まれる」と説明する。

 アイデア発想の名著であるジェームス・W・ヤングによる「アイデアのつくり方」では、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもなく、その組み合わせに導く才能は、事物の関連性を見つけ出す才能に依存するところが大きい」と主張している。さらに同著は「入浴中や起床時、ひげそり中など期待していない時に、アイデアが訪れる」という。まさに、鳥越社長と同様の見解だ。

 こうした関連付けは、相模屋食料がM&A(合併・買収)をした8社の豆腐メーカーでも積極的に実施される。

 21年9月に生まれたハンバーグのようながんもどき「肉肉しいがんも~INNOCENT MEAT~」も、その一つである。19年に京都タンパク(京都市)から譲り受けた豆腐製造事業が持つ、関西でがんもどきを作る際の伝統的手法である「手ごね」の技術と、「豆腐ならではの植物肉」という鳥越氏のアイデアが、結びついた成果だ。

 だが、革新的なアイデアの芽は社内会議などで摘まれる可能性も高い。鳥越氏は、そういう状況に陥る大企業が多いからこそ、大手が考えないようなアイデアで、スピーディーに開発を進めることが、勝機につながると主張する。

(法政大学経営学部教授)


西川英彦(2023)「ウニそっくりの豆腐 関連づけの妙が生む革新(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2023年2月17日付け、p.11.