column 2022.11.11

「ニッチ市場を攻めるには 諦めずに多様な手を打つ:ぺらっぷ(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

【図・写真】「ぺらっぷ」(左)を使うと、楽譜を2枚一緒にめくることがなくなる

【図・写真】「ぺらっぷ」(左)を使うと、楽譜を2枚一緒にめくることがなくなる

 打開策の多さが、ニッチな市場を立ち上げる。その好例が、企業からのテーマをもとに全国の大学生が商品企画を競う「Sカレ」で、著者のゼミ生が開発した「ぺらっぷ」の事例だ。

 ぺらっぷは、ピアノ演奏経験者の94%が抱える「楽譜めくりが大変」という悩みに応える商品である。対象が狭い上に電子楽譜の普及という逆風の市場を狙ったものだ。

 そのアイデアは、段ボール箱会社の美販(大阪府東大阪市)から出されたテーマ「クリアシート便利グッズ」を受け、学生が自らの経験から着想した。専門家などの意見を集め、中でも楽器小売り大手の島村楽器(東京・江戸川)の商品開発者や楽器インストラクターと打ち合わせを重ねた。その助言をもとに、めくりやすく改善するとともに、販売対象をピアノ演奏者に絞った。試作品を利用してもらった結果も好評であった。

 島村楽器には300円の店頭価格を提示し、商品化が決まったら、同社が購入して販売するという確約を得た。こうした成果が実り、2021年12月の大会で、見事そのテーマで1位を取り、商品化の権利を得た。

 しかし、最終試作品をもとに、美販が試算すると初期費用がかかり、小ロットでは店頭価格が880円になることがわかった。島村楽器からも、この価格では販売が難しいという指摘を受けた。

 販路拡大のため、メディアに取材を依頼するが、ニッチな悩みに対応したため共感が得られず、反応もない。

 そこで、彼らは自らのSNS(交流サイト)で発信しつつ、初期費用を集めるためにクラウドファンディングを利用し、購入や支援を募った。

 その結果、初期費用分の支援を得て、価格を500円まで下げることができた。島村楽器での正式販売が決定し、22年9月末より関東圏の店舗とオンラインストアで販売を開始した。全日本ピアノ指導者協会のプレゼントキャンペーンにも取り上げられた。

 皆さんはニッチな市場だからと諦めていないだろうか。多様な策を駆使すれば、学生でも商品化できるのだ。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2022)「ニッチ市場を攻めるには 諦めずに多様な手を打つ(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2022年11月11日付け、p.11.