column 2022.9.30

「日清食品のバズる発信 スルメサイクルで話題拡散(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

「バズる企業発信は偶然なので諦めている」というのが多くの広告・広報担当者の本音だろう。しかし、うまくいっている企業もある。SNS(交流サイト)での話題化とテレビでの再話題化という2段階の拡散が、その鍵となる。好例が、日清食品ホールディングス(HD)のケースだ。

 第1段階は、SNSでの話題化を狙ったCMである。同社CMには「世界のカップヌードル」編の「※営業資料より」と記した画面のただし書き=下の写真=や「ポーポポーポポ」という楽曲などのように、面白いものが多い。同社の米山慎一郎宣伝部長は「1回見ただけで印象に残るか、曲ならついつい口ずさむかを気に掛けている」という。

 そのアイデアは、社長と宣伝部員との社内の定例会議から生まれる。部員は日常的にアイデアのストックが求められる。人に勧めたくなる動画や広告などを見つけた時、何がポイントでそう思うのかを徹底的に分析する。そのポイントに同社のエッセンスを掛け合わせ、SNSでの話題化を狙ったCMを制作する。

 第2段階は、テレビでの再話題化である。SNSで話題化すると、まとめサイトやニュースサイトで取り上げられる。同社CMの7~8割は記事化され、CMや動画の再視聴が増え、SNSでの話題も増え、記事も拡大する。同社は、この循環を、かめばかむほど面白さが拡散する「スルメサイクル」と呼んでいる。

 さらに、ネットでの記事をみた番組プロデューサーが情報番組で紹介し、テレビで再話題化する。ネットを見ない顧客にも話題が拡散し、多くの顧客の購買につながる。

 同社は、かつては正統派のカッコいいCMを制作していた。だが、SNSが台頭し、顧客の情報取得の方法が変わったことで、SNSでの話題化につながるCMに変更し、ネットでの発信も強化し、2段階の拡散を実現した。

 いま話題化できていない企業はどうしたらよいのだろうか。同社の若手宣伝部員は話題化するSNSの投稿案を考えることで鍛えるという。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2022)「日清食品のバズる発信 スルメサイクルで話題拡散(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2022年9月30日付け、p.13.