デジタル社会になり、情報が氾濫する中、企業の発信は、ますます消費者に簡単に伝わりにくくなっている。企業がSNS(交流サイト)上で顧客と友達のようになることが、その突破口となる。好例が、シャープのツイッターの公式アカウントのケースだ。
2011年5月の開始より毎日発信を続け、現在82万人を超えるフォロワーを持つ。だが、ノウハウもない状態で始めた上に、同社は家電メーカーであり、毎日発信する新製品情報やイベントがあるわけでもなく、ここに至る経緯は容易ではなかった。
アカウント運営者、いわゆる「中の人」は、当初より、シャープマーケティングジャパンの山本隆博氏が担当してきた。同氏は「伝わらない時代は、誰が言うか、誰から伝わるかが全てで、その誰とは友達か好きな人である」と強調する。そのため、同氏は、企業も友達のように振る舞えないかと考え実践してきた。
具体的には、勇気を出してパーソナルな言葉を発信したり、顧客の投稿に反応したり、タイムリーに話題を提供したり、時には経済的な便益も提供したり、困った時には頼りになるような発信をしてきた。顧客のコメントに対応しない企業が多い中、顧客に寄り添う対応をしている。
炎上の際も、企業のアカウントの中に、勇気を出して、世間の空気と真摯に向かいあう人間がいることを想像してもらえるよう努めてきた=写真。企業の中に「いい人や立派な人がいる」と感じてもらえることが、大切だという。誰にとっても、信頼できる友達のような人が働く企業のイメージは良いからだ。
こうして、信頼されることで、情報が伝わるという。同氏は、こうした活動が認められ、多くの広告賞を受賞する。
しかし、こうした属人的対応は、引き継ぎの問題が気になるだろう。同氏は、深夜ラジオ番組のオールナイトニッポンのように、個性はありつつもブランドらしさが出れば、引き継ぎ可能と説明する。
本事例は、SNSをうまく活用できていない企業の示唆となるだろう。同氏は、その第一歩として、発信の主語を「我が社」ではなく「私」に変えてはどうかと提案する。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2022)「伝わらない企業発信 「我が社」ではなく「私」主語に(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2022年6月24日付け、p.11.