企業より個人と共創する方がイノベーションを創出する。好例が、A(エイス、東京・赤坂)の運営する共創プラットフォーム「Wemake(ウィーメイク)」=写真=だ。
このサービスは小林製薬や三井化学、コクヨ、ダイキン工業など約100社の依頼企業に対して、外部の個人や企業との共創を仲介し、新製品や新規事業を創出してきた。こうした取り組みの中で見えてきたのが、外部の企業より個人の方が、優れたアイデアを提案しやすいという傾向だ。
その理由は第1に、技術起点になりがちな企業より、ニーズ起点である個人の方が革新的アイデアを出す場合が多いからだ。個人のアイデアは自らが困っている課題をもとにしたものが多い。
生活上の課題だけではない。個人が仕事をしていく上で専門家として抱える課題もあり、こちらも成果につながっている。登録ユーザーの仕事は30業種にもわたるのだ。
例えば、京セラのジャイロセンサーの活用では、医師のアイデアが優秀賞を取った。それは遠隔医療の聴診器が、音を増幅させるだけでは衣ずれなどの音で精密な音が聞けないという、現場での問題を起点にしたものであった。
第2の理由は、アイデアを考える上での制件が企業より個人の方が少ないからだ。しらがみなどがない個人は依頼企業のことだけを考えるため、発想が自由になり、革新的なアイデアとなりやすい。
一方、企業の場合は自社領域に近いかどうか、自社技術が活用できるかどうかを優先しがちで、収益性も考慮するので、必ずしも依頼企業の目的にあった提案にならない。
また、外部企業の中では、共創に向くと思われるスタートアップより、大企業の方が幅広い事業領域や資源を持っているので、依頼企業の課題に応えやすい。仮に領域外の依頼であっても、大企業は新規事業として受ける場合もある。さらに採用後も品質や規模の面で依頼企業の要望に合わせやすく、実現可能性も高い。
社外の知恵の活用に苦労している企業が少なくないが、こうした現状の理解こそが、第一歩となるだろう。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2022)「共創プラットフォーム 企業より個人のアイデア(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2022年5月13日付け、p.11.