実験思考が新市場を創造する。その好例が、ヒット曲を次々と生み出すAyase氏とikura氏による音楽ユニットの「YOASOBI」のマネジメントである。両名に、ソニー・ミュージックエンタテインメントの3人を加えた5人=写真=が現場での判断から戦略までをマネジメントするプロジェクトだ。
きっかけは、同社の屋代陽平氏が2017年に立ち上げた小説投稿サイトに遡る。投稿小説をもとにした音楽を見据え、19年にアーティストの宣伝・制作業務を行う同期の山本秀哉氏に相談した。
意気投合した2人は、楽曲制作者として、ニコニコ動画で音楽合成ソフトのボーカロイドで楽曲を制作していた、Ayase氏を見つけ、声をかけた。3人で歌い手を探し、YouTubeで有名曲のカバーを配信していたikura氏に声をかけた。
こうして実験的な取り組みとして開始された。小説をもとに楽曲を制作するAyase氏に10代が好む音楽を分析した山本氏が助言し、第1弾の「夜に駆ける」が完成した。
ミュージックビデオがYouTubeで公開されると、これが1カ月で100万回再生と予想を超えるヒットとなる。コロナ禍でエンタメの話題がない中「小説を音楽にする」というコンセプトがうけ、ワイドショーで多く紹介された。
メディアでうけたことで、メンバーはこのコンセプトに手応えを感じた。メディアに出演した2人のパーソナルな面も評価された。それを訴求し、話術を身につけることが幅広いファン獲得につながるという仮説につながり、深夜ラジオのレギュラー番組の出演も実現する。
工事現場や提携企業の拠点での配信ライブ、もととなる小説を直木賞作家4人が執筆するなど、従来の常識とは異なることを次々と実験的に実施し話題が絶えない。
プロジェクトは実験的に挑戦しつつ、市場の反応をみて、柔軟にスピード感をもって次の手に反映する。こうした実験思考が小説×音楽という新市場を創造したのだ。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2022)「YOASOBIのヒット ― 小説×音楽、実験が市場創る(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2022年3月18日付け、p.11.