column 2022.1.28

「格安スマホの「マイネオ」― 顧客のアイデアが価値創る(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 顧客のアイデアが価値を創出する。こうした消費者との関係は簡単ではない。そもそも消費者からのアイデア収集が困難だからである。1日1件のアイデアを収集できる企業は、市場のわずか1%にしか満たないという。

 とりわけ知名度がなく、差異化しにくい製品・サービスでは、より困難であろう。こうした中、困難克服の好例が、オプテージの格安携帯電話サービスのマイネオだ。顧客との共創をブランド価値の源泉としている。2014年の開始時に予算がないため、価格以外での勝負が考えられた。英国の同業者の例を参考に、翌年コミュニティーサイトの「マイネ王」が立ち上げられた。現在会員は70万人で、利用者の約6割を占める。

 主要コンテンツの1つに、アイデアファームがある。顧客から新サービスや改善の提案を受け付ける。全アイデアを毎週役職者で確認し、優先度をつけて対応する。累計アイデア数は約1万件で、うち約千件以上を実現している。

 そこから生まれたユニークな人気サービスが「フリータンク」だ。ユーザー間で通信容量を無料で共有できる。期限が迫り余りそうな通信容量を放出し、他の顧客が利用できる。大規模災害時は「災害支援タンク」として被災者は10ギガバイトまで使える。これも顧客のアイデアがきっかけだ。

 スタッフブログでは、スタッフがマイネオや顧客に関心がある情報を投稿する。顧客から多くのコメントがあり、すぐにスタッフが返信をする。Q&Aは、顧客間の問題解決の場だ。即座に他の顧客からの回答があり、自然検索流入を呼ぶコンテンツになっている。他にも、多くのユニークなイベントや発信=写真=で、顧客との交流が頻繁に行われる。

 その結果、顧客の満足度やNPSなどで高い評価をうける。さらに加入者の20%が会員の紹介である。成功の秘訣は、顧客にフレンドリーに接し、顧客の声を聞きっぱなしにせず、多くのアイデアを実現し、コメントや質問に即時に反応している点であろう。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2022)「格安スマホの「マイネオ」― 顧客のアイデアが価値創る(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2022年1月28日付け、p.15.