地方自治体との共創。この手法が市場を拡大する。好例がカルビーの「♥JPN(ラブジャパン)」だ。地域の人々と共創して47都道府県の地元の味を再現し、数量や期間限定の商品を発売するプロジェクトである。
きっかけは2015年、福島県出身のカルビーの伊藤秀二社長に福島市役所の知人から商品化の相談が舞い込んだことだ。市職員との話し合いの結果、特産品ではなく地域の食文化に焦点をあてることが決まった。
伊藤社長は、自らが幼少期によく食べていた福島ならではの家庭料理「いかにんじん」の味をポテトチップスで再現したいと考えた。試作を繰り返し、市職員を対象にした試食を経て商品化された=写真。
16年に発売すると、わずか1週間で福島県内の1カ月の販売予定数量の約10万袋を完売した。その後、地域限定商品としては異例の再々販売をするという大ヒット商品となった。伊藤社長は全国の地域で取り組むよう指示し、プロジェクトがはじまった。20年までに200近くの新商品が誕生し、市場拡大に貢献した。
こうした自治体との共創は双方にメリットがあり、相乗効果をもたらす。自治体は地元の農産物を使うことでPRや生産者の支援など地域活性化につながる。これは、同社が自治体を説得する際に強調した点でもある。
一方、カルビーにとっては普段ポテトチップスを食べない新たな顧客層の獲得につながる。だが、単に地元の味がよかったわけではない。実は過去に土産用として、ご当地商品のポテトチップスを発売したが、ここまでの成果はなかったのである。
地元との「共創」という開発ストーリーが多くのメディアに取り上げられ、県下の多くの小売店に並び、地元の人々の共感を呼んで成果につながった。発売の少し前に知事を表敬訪問して、新商品を公開し共創を説明したこともメディアに取材され、ストーリーを正しく伝えることにつながった。
意図せず生まれた共創を生かすのは、企業しだいだ。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2021)「自治体と商品共創 ―「物語」が共感呼びヒット(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2021年12月10日付け、p.11.