column 2021.10.29

「顧客との新市場創出 ― 相互利益が成功のカギに:ワークマン(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 用途開発し、インターネットで発信するファンを探索する。この顧客との共同開発が新市場を創出する。好例が、ワークマンのケースだ。
 同社は、既存の作業服市場が飽和する中、機能性ウエアとして、新市場への拡大を目指していた。作業服の開発では、社員は仕事で着ないため、顧客の声が役立った。新市場でも、作業服以外の用途で着ている顧客の声を取り入れることにした。
 2019年に、同社営業企画部の林知幸部長は店舗スタッフから溶接工用の服への問い合わせが増えていると聞いた。年間売上5千枚というマイナー商品のため不思議に思って検索するとサリーさんのSNS(交流サイト)の写真を見つけた=写真(左)。メッセージで尋ねると、たき火の際に火の粉が飛んでも穴が開かないことが着用理由だった。
 サリーさんと最寄り店舗で会うと、かぶって着るタイプの商品で脱着がしにくく、髪の毛が絡んだり、化粧が落ちたりという不満も分かった。これを聞き、共同開発を打診し、コットンパーカー=写真(右)=を開発した。サリーさんが発売前から継続的に情報発信したことで、1週間で2万枚を完売した。改良した別の商品も、30万枚が売れた。
 他にも猟師やバイカーなど10人の顧客との開発により66の新商品が生まれた。顧客の情報発信も手伝ってヒット商品となり市場が拡大した。
 同社は、こうした顧客をアンバサダーと呼び、発信だけを担う顧客を含めて40人いる。募集はせず、自薦他薦もお断りする。自社名などをエゴサーチをして、ブログやユーチューブから探索する。SNSは文字数が短く、判断できないという。同社商品の投稿数の多さや、商品への愛を感じられるか、用途開発をしているかを確認し判断する。
 顧客は無報酬だが多くのメリットがある。イベントや勉強会に参加することで商品情報をいち早く発信でき、プライスレスな共同開発も体験できる。同社の店頭販促(POP)やカタログなどにも紹介されて自身のフォロワー数が増え、広告収入も増える。
 こうした相互利益が、成功の鍵であろう。相乗効果を発揮し、市場創造を加速する。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2021)「顧客との新市場創出 ― 相互利益が成功のカギに(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2021年10月29日付け、p.12.