column 2021.7.30

「日本コカ・コーラのコーク・オン ― 自販機の新たな活用生む(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 スマートフォンアプリとのネットワークが既存資源の新たな活用を見いだす。好例が、日本コカ・コーラが展開するスマホアプリの「コーク・オン」のケースだ。自販機は、同社が市場の最大台数をもち、自由に品ぞろえや定価販売できる重要な資源である。だが、コンビニエンスなどの影響で、伸び悩んでいた。

 こうしたなか、近距離無線通信規格「ブルートゥース」で自販機とつなぐスマホアプリが考案された。2016年4月に、まず電子版ポイントカードとして誕生。対応自販機で購入するとアプリ上でスタンプが押される。15個集まるともらえるチケットを自販機に向けてスワイプすれば欲しいドリンクが入手できる。

 18年4月には日常的な利用を促すため飲料と親和性の高いサービスが模索され、ウオーキングが結びついた。1週間や累計の歩数目標を達成するとスタンプを獲得できる。目標は1日5千歩から設定でき、変更も可能だ。「毎回失敗していると続けなくなるため」と日本コカ・コーラのマーケティング本部の宇川有人シニアマネージャはいう。

 同年11月には決済機能をもたせ、アプリで商品を選択し、自販機に触れずに購入が可能になった。

 さらに21年4月からは、月額2700円で、対応自販機で1日1本が買える定額サービスを始めた。自社資源のために実施しやすい。期間限定で半額にし、先着10万名を達成。それまでのアプリの会員基盤が募集を容易にした。オリンピック中も会員を増やす多くのイベントを仕掛ける。アプリは、現在2800万人がダウンロードしている。同社の自販機88万台のうち38万台で利用でき、同社自販機の売上高の7~8割を占める。

 こうしたデータを使って個別顧客に適した商品を提案できる。天気と連動して、熱中症予防のためのスタンプ提供も可能だ。同時に、アプリ経由で個別自販機の販売動向や欠品情報も把握でき、最適な品ぞろえや配送計画を作成することも可能だ。その結果、対応自販機は非対応のものと比べて販売額も高いという。

 このように弱体化する資源もアプリとの連携で企業に価値をもたらした。それだけでなく、本ケースのように、日常的な利用を促す顧客価値の提供が肝要だ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2021)「日本コカ・コーラのコーク・オン ― 自販機の新たな活用生む(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2021年7月30日付け、p.16.