column 2021.6.11

「エムスリーの評価サービス ― 医療従事者の意見反映(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 ネットワークの巧みな多重利用が、新たな顧客価値を創出する。好例が、エムスリーが提供する「AskDoctors(アスクドクターズ)評価サービス」のケースだ。
 同社は、医療ニュースや製薬情報、医師求人情報などを発信する医療従事者向けの会員サイトを展開している。
 こうした医師とのネットワークを活用した事業が、本ケースである。100人以上の医師が商品やサービスの評価を行い、一定以上の推奨が得られたら、認証マーク=写真=を、商品や店頭販促(POP)、サイト、広告などに表示し、販促に利用できる。
 具体的には、メーカーにより用意された各種データや商品を、医師100~千人に送付し、「ぜひ勧めたい」「勧めたい」「勧めたくない」「まったく勧めたくない」の4段階の推奨意向の評価を依頼する。75%以上の肯定意見が得られれば、認定される。未達の場合は、再度同じ内容での再評価もしない。新たなデータなどの証拠が追加された場合のみ、再評価可能だ。
 健康志向の食品や飲料を中心に、日用品、雑貨、家具、保険など多様な分野で利用され、累計導入数は60商品を超える。利用した87%の企業が昨年同月比に比べ、売上高が向上したという。80%の企業が流通や小売店向けの営業ツールとして、有効と回答。多数の医師による高い評価という信頼性が効果をもたらす。
 他のサービスと組み合わせることで効果をさらに発揮する。同社は診断予約アプリを展開していて、700もの病院の待合室のディスプレーに広告を配信できる。認証マークの付いた商品の動画広告を配信したところ、サイトでの動画広告より商品の機能の理解度や購入意向が非常に高いという結果が出ている。
 他にも、医師とのネットワークを活用し、病院での認証マーク商品のパンフレット設置やサンプル配布が可能。その結果、指名買いが増加し、ブランドの離反が減少した。広告に登場する医師を紹介することも可能だ。
 ネットワークを新たな顧客に向けて活用し、価値を創出した。皆さんも自社がもつネットワークの可能性を再考してはどうだろうか。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2021)「エムスリーの評価サービス ― 医療従事者の意見反映(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2021年6月11日付け、p.14.