column 2021.3.19

「富士ソフトの仮想オフィス ― リアル以上の価値(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

【図・写真】FAMoffice

【図・写真】FAMoffice

 バーチャルオフィスがリアルを超える価値を創造する。富士ソフトの「FAMoffice」=写真=の事例だ。

 昨年4月の緊急事態宣言をうけ、同社では社員の約7割がテレワークを始めた。だが、社内アンケートをすると、ちょっとしたコミュニケーションができないという課題が上位を占めた。上司は部下の状況が把握できないことを、部下は上司や同僚の状況がわからず相談しにくいことを不満に感じていた。

 多くの企業でもありそうな課題で、それを解決するシステムは市場性があると考えられ、「FAMoffice」が開発された。まずは、テスト運用として、7月から社内で実際に利用された。社員は毎朝ログインし、ネット上のオフィスに出社し、自らのアバターを操作し、部署の座席に着席する。一方、ログオフすると、退社となる。出退勤の時間は画面に表示される。

 会議室にアバターを入室させると、すぐに会議ができる。オンライン会議システムのような、リンクを送る手間もない。プレゼンの資料の表示や共有、共同編集も可能だ。会議室にいる社員にのみ、アバターに本人の顔の映像が小さく表示され、絶えず画面に映るというストレスもない。

 アバターが「ランチ中」「出張から戻りました」など短いメッセージをつぶやくことで、自分の状況を周りに知らせることもできる。画面上のアバターを動かし、話したい上司や同僚のアバターに近づけると、オンライン上で会話や打ち合わせが3人まで可能となる。

 こうしたアバターが動く姿を見て、上司は部下が仕事をしていることを実感でき、部下は上司にさぼっていないことをアピールできるという。

 同社プロダクト事業本部の永瀬佳代子事業部長は、「3地域に分散していた事業部のメンバーがワンフロアにいて、今まで以上にコミュニケーションがしやすくなり、一体感もでた」という。リアルを超える価値であり、社員の帰属意識が上がる可能性ももつ。

 多くの企業がコロナ禍でやむを得ず進めたデジタル化だが、事例のように、新しく生まれた価値を見逃してはいけない。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2021)「富士ソフトの仮想オフィス ― リアル以上の価値(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2021年3月19日付け、p.17.