column 2020.12.11

「『無印良品』新潟で挑戦 ― 地域資源と補完、追求(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 顧客志向はマーケティングの要諦だ。その理屈からいえば、地方であれば、その地域のニーズをもとに発想すべきだが、全国展開するブランドが、地域に限定して対応するのは難しい。

 そのジレンマへの挑戦が良品計画の「無印良品 直江津」のケースだ。今年7月に直江津ショッピングセンター・エルマール(新潟県上越市)2階にオープンした約6000平方メートルの世界最大の無印良品の店舗だ。直江津は、人口減、高齢化、中心市街地の衰退という典型的な地方都市の課題を抱える。

 良品計画は、地域活性化に向け、上越市とビルオーナーの頸城自動車と提携した。プロジェクトメンバーは、店舗コンセプトを「くらしの真ん中」とし店舗を核に、地域に役に立つことを考えた。約50もの施策が計画された。

 その実例のいくつかを紹介する。まず地域での取り組みである。第1に三・八の市への出店である。100年以上続く朝市だが、ライフスタイルの変化を受け、出店数も客数も減少傾向であった。今年5月より、天候に関係なく出店し朝市を盛り上げた。

 第2に「MUJI to GO移動販売」である。頸城自動車の未稼働バスを利用し、8月より移動販売をはじめた。

 続いては、店舗内での取り組みである。第3に「なおえつ良品食堂」の開設である。地元農産物を使った料理や地元有名店「とん汁 たちばな」から学んだ、とん汁やラーメンを提供する。

 第4に「なおえつ良品市場」の開設である。農産物直売所と連携し、地域の農産物生産の拡大に向けて地域産品を展開する。第5に、「オープンMUJI」の開設である。学び・遊び・発見ができるコミュニティスペースである。

 これらの成否の判断は早計だが、その姿勢は地域の人々の共感を得るだろう。地元で「直江津のブログ」と呼ばれる、地元商店主が自動販売機に掲載するポスターでも評価される=写真。

 このように地域ニーズを理解し、自社と地域資源との補完関係を考え続ける姿勢が、活路を見いだす。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2020)「『無印良品』新潟で挑戦 ― 地域資源と補完、追求(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2020年12月11日付け、p.14.