column 2020.10.30

「ホテルの空き活用 ― 補完関係から新事業:JTB My Office NAVI(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 補完関係のある共創が新たな事業を見いだす。好例が、JTBとNECソリューションイノベータによる「JTBマイ・オフィス・ナビ」だ。日中のホテルの客室や宴会場、会議室という遊休スペースをテレワーク可能なシェアオフィスとして活用し、企業に提供するサービスである。

 そもそもJTBが共創事業として相談することから始まった。NECが働き方改革やオリンピック時のテレワークの準備のため、シェアオフィスを多く使っていることがわかった。JTBは旅行業で全国のホテルと接点があり、法人の出張管理のサービスをしているため、多くの法人と接点もある。NECは自社の需要がある上に、システム開発もできる。

 顧客である法人にとっては、テレワークの課題である安定した安全なインターネット環境の確保や、機密性の高い企業情報を扱うためセキュリティー対策は重要。客室のため、セキュリティー面だけでなく、清掃サービスもあり安心して利用できる。一方、ホテルも法人顧客のため、安心して客室を貸し出すことができる。両者が共創することで、これまでにないシェアオフィスを企業に提供する新しい事業ができることに気づいた。

 こうした中、コロナで急速に事業化が進む。需要が急減したホテルのニーズの高まりと密室を避けるためにテレワークでデイユースできる安全な個室が必要という顧客ニーズが一致した。

 8月末に、東京都内や近郊のホテルでサービスを開始した。客室は最低3時間3千円から、宴会場などのオープンスペースは15分単位で200円から利用できる。

 法人契約をすると、社員は専用サイトで検索・予約し、スマホで設置のQRコードを読み込んだ画面を提示しチェックインし、利用中に空きスペースがあれば延長可能で、終了後もQRコードを読み込んだ画面提示でチェックアウト=写真=と、簡単に利用できる。

 資源の補完関係がある共創は新事業を実現しやすい。ケースのように自身が顧客の一員であることは、事業推進だけでなく改善に向け有効だ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2020)「ホテルの空き活用 ― 補完関係から新事業(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2020年10月30日付け、p.13.