新型コロナウイルスがイベントの新たな価値を見いだす。その好例が、日本マーケティング学会(会長・古川一郎武蔵野大学教授)のカンファレンスのケースだ。学会は2012年に設立され、約2千人の会員のうち3分の1が研究者、3分の2が実務家で、両者が交流できる「探求と創発の場」の提供を目指す。
学会では多くの研究報告会が毎月実施され、メインイベントが「マーケティングカンファレンス」となる。例年、700人ほどの会員が全国から集まり、東京の大学で開催される。今年は、新型コロナ感染防止のため、来月18日に初めてオンラインで開催される=写真はプログラムの一部。
流通、サービス、デザイン、デジタル、医療、健康、鉄道、宇宙など多様な研究テーマをもつ報告会が15会場で同時開催される。その後のポスターセッションでは54件の報告、オーラルセッションは15会場で同時開催される。次に、「#いまマーケティングができること」というテーマで、著名な研究者と実務家を招いた基調講演がある。最後にオンライン懇親会も開催される。例年通りの170ほどの研究報告がオンライン会議アプリのズームやオンラインストレージのドロップボックスを使って、今年度はオンラインとなる。
こうしたオンライン開催の価値は以下となる。第1に、地理的制約がなくなり全国から参加しやすくなる。多数を占める首都圏会員に合わせた東京開催は、遠地会員には不便であったからだ。第2に、時間的制約がなくなり同時開催のセッションの録画視聴ができる。報告者も参加者もオンライン参加のため、録画が容易となるからだ。従来だとビデオカメラの機材や撮影者などが必要でハードルが高かったのだ。最後に、これが革新的だが、事後申し込みが可能となる。開催後1カ月間は、録画を視聴でき見逃し配信番組のように視聴できる。非会員もお試し価格で視聴可能だ。
新たな価値はさらなる価値をもたらす可能性をもつ。企業でも自社のイベントを再考するのは重要だろう。マーケティングに興味あれば誰でも会員になれるので来月のカンファレンスでぜひ体験してほしい。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2020)「コロナとイベント ― オンラインで革新(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2020年9月18日付け、p.11.