column 2020.8.7

「ロコガイド電子チラシ ― コロナで新たな価値(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 新型コロナウイルスがビジネスの新たな価値を見いだす。好例が、ロコガイドのケースだ。

 「ローカルのガイド」が社名の由来で、地域ならではの有益な情報を発信する。その中心事業は、スーパーマーケットやドラッグストア、ホームセンターなどの電子チラシを閲覧できるウェブ・アプリサービスの「トクバイ」である。現在5万店舗が登録し、月間利用ユーザーは1千万人となる。

 店舗にはコストやリアルタイム性、検証可能性などの価値を提供する。同社によると、新聞折り込みチラシでは月額100万円かかるが、トクバイでは月額5千円にまで節約できる。製作や印刷などにかかる時間がなく、従来難しかった生鮮食品の特売情報も即時配信できる。さらに、どんな属性の顧客の何人に情報が届き、何人に見られているかという効果も検証できる。

 顧客にはコストやリアルタイム性に加え、カスタマイズという価値をもたらす。新聞を買わなくても無料のアプリで最新の特売情報を閲覧でき、自らの欲しい店舗の情報のみを選択して入手できる。

 こうした顧客の価値は、コロナ禍ではより意義をもたらす。在宅勤務や自宅での食事の増加により、生活圏での地域情報を必要とする顧客がより増加したためである。さらに安全という価値も加わった。できるだけチラシなどの紙媒体に触れたくないというニーズに応えることになった。

 5月より混雑状況を知らせる「混雑ランプ」を開始した=写真。店舗や施設の混雑を、専用アプリやボタン型端末で、「空き」「やや混み」「混み」の3段階で発信できるサービスである。

 店舗だけでなく、多様な施設に広がる。浜松市の飲食店や観光施設、市庁舎窓口、静岡市や岐阜市、三重県桑名市の市庁舎窓口、カワスイ川崎水族館、ペイペイドームの飲食店などで実施または実験をしている。

 こうした外部環境の変化を捉え、自社の価値を再考するのは重要だ。新たな価値をもたらす機会となるだけでなく、脅威となる可能性もありうるからだ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2020)「ロコガイド電子チラシ ― コロナで新たな価値(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2020年8月7日付け、p.12.