電子教科書の意義――。皆さんは持ち運びや検索が便利なだけだと思っているかもしれない。だがそれだけでなく、知識を授業外で習得の上、講義で定着させるという反転授業を容易にし、学習の成果を高める。好例が全国大学生活協同組合連合会の電子教科書だ。
学生は大学生協でクーポンを購入し、パソコンやスマホなどのアプリで電子教科書が読める。アプリでは、マーカーやしおり、コメント、検索などができる。一般的な電子書籍と同様の機能だ。
だが大きく異なるのはマーカーやコメントなどの個人の学習成果を教員や他の受講生と共有できることだ。教員の付けたマーカーやコメントも、受講生と共有できる。重要なキーワードや、それに関連した事例や書籍、動画などのサイトへのリンク張り付けが可能となり、教科書の内容を補足できる。
さらに教員は受講生の学習ログを把握できる。学生の興味ある記述や読んだページや学習時間の確認、それらと成績との関係も分析できる。
著者のマーケティング・リサーチの授業でも「1からの商品企画」(碩学舎)の電子教科書の利用を昨年度から始めた。学生には講義で紹介するために、教科書を予習して、興味ある記述に、その理由のコメントをするように依頼した=写真。こうした簡易な反転授業を実施した。
それまでは、教科書をもとに作成したスライドを映し講義していたが、受講生のコメントを該当箇所で適時紹介できるよう、電子教科書の画面をスクリーンに映し、講義を進めた。437人と受講生の多い講義だが、著者も学生も、特に問題なく利用できた。学生のコメントをもとにした議論の発展も好評であった。
この結果、紙版では約15%であった教科書の購入率が約70%に向上し、授業外学習の機会を増やした。さらに、電子教科書へのコメント数や読んだページ数の多い学生が、成績も高いという因果関係もみられた。
新型コロナウイルス感染症拡大予防の中、電子教科書の意義はより高まるだろう。その支援として、碩学舎では、これらの電子教科書の無料公開を実施している。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2020)「電子教科書の効用 ― 全員で学習成果共有(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2020年4月10日付け、p.13.