行動の組み合わせが革新的アイデアを創造する。その好例が企業からのテーマをもとに実際に商品発売を目指す大学生のインカレ「Sカレ」だ。14回目の本年度は、DHCや日本旅行、大正製薬など8社のテーマをうけ、25大学29ゼミに所属する3年生392人の119チームが参加。
まずチームは10月の秋カン(報告会)で、商品コンセプトを発表。次に企業のフィードバックをもとに改善し企画書を作成し、12月の冬カンでプランを発表。企業や教員評価によりプラン1位が決まり、さらに各テーマ1位による決勝戦でプラン優勝も決定する。
今年度プラン優勝は明成孝橋美術(大阪市)の「社会課題を解決する印刷製品」というテーマの法政大学西川英彦ゼミによる「懐話ふだ」の企画だ。時代と思い出のカードをめくり会話を促進しつつ神経衰弱の要素を併せ持つカードゲームだ。
当初のアイデアはコースターをめくり書かれている質問で、親子の会話を促進するものであった。だが、秋カンで、企業から社会課題としては弱いという指摘をうけた。
社会課題として、メンバーの1人が祖母の認知症に着目した。専門家のサイトで知った認知症を予防・抑制する心理療法の回想法と、先の会話促進アイデアを組み合わせたカードゲームに発展。
複数の老人ホームに訪問する中、入居者の半数が認知症という現状や、その対応への課題を知った。その課題だけでなく心のこもった介護のため入居者を深く知りたいという現場の要望も解決できることに気づいた。
現場情報をもとに作製した試作品を祖母や入居者に利用してもらうと昔好きだった人の話など笑顔で話す姿を見て、商品価値を実感。その利用から文字や色、会話テーマや文章など試作品をブラッシュアップ=写真。現在、発売に向けクラウドファンディングを計画。
専門家とのネットワークや、現場の観察、試作品の実験など多様な行動の組み合わせが学生にも革新的アイデアをもたらす。クレイトン・クリステンセン氏らの著書『イノベーションのDNA』でもイノベーターの行動特徴として、同様の指摘があり裏付けされる。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2020)「インカレ「Sカレ」― テーマ基に商品創造(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2020年2月21日付け、p.11.