消費者のブランド関与を高めて、顧客価値を向上する。企業であれば、誰もが望むことだろう。だが、競合も多い中、そう簡単ではない。ユーザー参加型製品開発は、その可能性を高める。その好例が、キッコーマンの「ワインブレンドパレット」のケースだ。
「ごく一部のブレンダーしかできなかった、ワインの個性を創るブレンドを実施でき、誰でも自由にワインを創れる」と同事業を立ち上げた経営企画部の禰宜田英司氏はいう。
パソコンやスマホで、7種類の赤ワインの原酒から、その特徴を確認しながら最大5種類選べる。選んだ原酒の配合を5%単位で設定し、ライト/フルボディー、果実味/深みという2軸のグラフで味を確認しつつ決定できる。最後に10種類の中からラベルを選べば完成だ。価格は約3千円(送料別)で、2~3週間で届く。創作したワインをサイトで紹介もでき、他人が創作したワインも買える。
さらに東京本社や勝沼ワイナリーなどで、ワークショップが開催され、すでに800人ほどがブレンドを体験=写真。
このように、他にはない自分が創作したワインは、消費者のブランド関与を高めるだろう。この事例は、一般的にはマスカスタマイゼーション(個別仕様に応えつつ大量生産により効率化を両立する手法)だが、個別仕様の範囲が大きく、ユーザー参加型製品開発に近い事例といえるだろう。しかも、1個生産できるのも強みだ。
この仕組みは飲食店でも利用できる。「肉のヒマラヤ」や「シックスカレー」では、自店顧客と一緒に創ったワインを、オリジナルラベルをつけて、提供している。さらに、来月上旬オープンの「ノムノ秋葉原店」の赤ワインは、原則この仕組みで創られたワインとなる。店舗で、体験キットを使ったワイン創作もでき、それらが店舗での取り扱いワインの候補となるのだ。
このように消費者だけでなく、企業のブランド関与を高めることも可能だ。皆さんも、自社の製品開発において、消費者が参加できるプロセスがないかを、見直してはどうだろうか。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2019)「キッコーマンのワインブレンド ― 消費者が製品開発(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2019年11月15日付け、p.11.