column 2019.5.24

「TDRのハンドソープ ― 楽しい体験を商品に:ミッキーシェイプのハンドソープ(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 連鎖する経験価値。顧客の楽しい体験を商品に結びつけることができれば、顧客への価値を向上させる可能性を持つ。好例がオリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾート(TDR)に、花王が協賛する「ミッキーシェイプのハンドソープ」のケースだ。

 それは、2015年7月に、東京ディズニーランド(千葉県浦安市)と東京ディズニーシー(同)の屋外のハンドウォッシングエリアや、一部のレストルームの子供用シンク横に設置された手洗い設備のハンドソープ=写真=だ。ボタンを押したり手をかざしたりすると、ミッキーマウスの顔型のハンドソープの泡が出るという仕組みだ。一般的に、子供にとって、手洗いは積極的にしたいことではないだろうが、行列ができることもあるほどの人気エリアとなった。

 楽しく手を洗うといった体験を通じて、子供たちが「きれい」の大切さに目覚める、そんな小さな魔法を提供したいという花王の思いと、ディズニー・テーマパークの基本理念である「ファミリーエンターテイメント」という考え方が一致し、実現した。

 18年7月には、両パークでハンドウォッシングエリアが増設された。同時に、楽しみながら手洗いをする体験を広く伝えるため、ハンドウォッシングエリアの施設あるいは泡が入った写真を撮って、「#花王」「#きれいの魔法」というハッシュタグをつけ、ツイッターやインスタグラムに投稿してもらうイベントを実施。2カ月にわたり、顧客による約7千件もの写真が投稿され、楽しい手洗い経験の価値が多くの人々に広がる。

 さらに、同時期に両パーク内限定で、手洗い設備同様に、ミッキーマウス型の泡が出る家庭用ハンドソープ「ミッキーシェイプのハンドソープ」の販売も始まった。パークでの楽しかった思い出と、手洗いの習慣を自宅に持ち帰ることができ、経験価値が自宅にまでつながる。

 だが、それだけではない。家庭用ハンドソープの中身は、花王のビオレUのため、顧客は市販のリフィルを購入すれば補充できる。経験価値は、途切れることなく、持続していくのだ。

(法政大学経営学部教授)


西川英彦(2019)「TDRのハンドソープ ― 楽しい体験を商品に(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2019年5月24日付け、p.11.