価値連鎖のイベントがロングセラーブランドを再活性化させる可能性をもつ。その好例が、カシオ計算機のGショックの「ショックザワールド」=写真=だ。
Gショックは「落としても壊れない時計をつくる」という開発者の信念から1983年に誕生した。90年代に若者の間で空前のブームが起こり、90年代後半にブームが終わった。携帯電話の普及も若者離れを加速した。
もう一度、若者に支持されるブランドになる必要があった。そこで、同社の上席執行役員の樫尾隆司氏は「ブランド価値の伝達と共感を生み出す仕掛けとして、ショックザワールドが考えられた」という。
そのため、2部構成となる。まず1部として、ブランド発信を行うカンファレンスを実施。コンセプトの「タフネス」や開発ポリシー、製品・技術・デザインを説明。さらに、サーフィンやBMXやスノーボードなどのトップアスリートたちであるアンバサダーが想いを伝える。
2部では、若者に共感やつながりを醸造するライブイベントを開催。各国の若者文化を代表するアーティストたちによるライブを実施し、ブランド価値の背景にある世界観を訴求する。
こうしたイベントに、流通やメディアの担当者を招待し、ファンになってもらうことで、店頭やメディアを通して、ファンが語り、ファンを創るという構造をつくりあげた。2008年以来、東京をはじめニューヨーク、パリ、ベルリン、香港、上海など約70カ国で開催した。
それだけでなく、製品や技術も進化を遂げる。さらに、若者向けだけでなく、従来の顧客向けに高価格帯を発売した。同時に、ブランド発信や高価格商品販売に向け、マス流通ではなく、専売店での販売も強化する。
こうして出荷数は、ブーム時のピークの600万台を大きく超える1千万台を達成する。累計1億台が出荷され、約120カ国で販売された。
一般的に、製品発表会と協賛イベントは別に実施されることが多いだろう。このケースのように価値連鎖の視点で再考し、両方のイベントをセットで実施することには意義がある。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2019)「「価値連鎖 ― イベント再考に意義(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2019年2月22日付け、p.15.