column 2019.1.11

「リードユーザー ― 革新的なヒット生む:HOPPIN’ GARAGE(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 「リードユーザー」の製品開発への参加はイノベーションをもたらす可能性がある。例えば、2018年10月に始まったサッポロビールの「ホッピンガレージ」。

 マサチューセッツ工科大学のエリック・フォン・ヒッペル教授によれば、リードユーザーは単にアイデアやモノづくり経験があるだけでなく、2つの特徴をもつという。まず、既存製品で満足できないニーズを対象市場の消費者よりも先に感じ、解決策を見いだす「先進性」。次に、ニーズをかなえることで自分に利益がもたらせると信じ、革新に動機づけられるという「高便益期待」だ。そのため、リードユーザーは、革新的なヒット商品を生み出すと説明する。

 こうしたリードユーザーを探す方法は2つある。1つはネットでアイデアを広く募集する「クラウドソーシング法」だ。たくさんのアイデアが集まるが、リードユーザーを選び出すのは難しい。

 もう1つは、個別にアイデアのある先端的ユーザーを探しにいく「リードユーザー法」。リードユーザーの特徴をもつと思われる人を選び、その人から特徴をよりもつ人の紹介をうける。確実にリードユーザーに辿りつけるが、探索に費用や時間がかかる。

 今回、ホッピンガレージでは両手法でリードユーザーを探索する。その開発プロセスは4段階。第1に両手法で自分が飲みたいビールの企画案を収集する。第2に審査を経てアイデアが採用されると、ブリュワーとの開発会議を実施。約2カ月後、ビールが完成。第3にビール好きのいるコミュニティー上でイベントを告知し、できたビールで乾杯する。最後に、イベントでの評判が良ければ、商品として売り出す可能性をもつ。

 すでに3人のリードユーザーによって新規性の高いビールが生まれた。ビール醸造経験があり、本事業で提携するキッチハイク(東京・台東)の共同代表の山本雅也氏や、スープストックトーキョーなどを運営するスマイルズの遠山正道社長=写真(左)=などだ。ネット募集のアイデアからも実現化が決定した。

 市場成果はこれからだが、両手法の併用は相互の課題を補完できるため、意義があるだろう。

(法政大学経営学部教授)


西川英彦(2019)「リードユーザー ― 革新的なヒット生む(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2019年1月11日付け、p.11.