【図・写真】auショップ
「カスタマージャーニー」への対応が、顧客価値をもたらす。カスタマージャーニーとは、企業が顧客に対し、どのようなタイミングで、どのようなコミュニケーションを通じて働きかけ、顧客の態度変容を起こすのかを理解し計画するための枠組みである*。その好例が、KDDIの「auノート」だ。
「auショップ」では、顧客に満足を与える接客を理想としていたが、商材が増え手続きが煩雑化する中、理想と現実の接客にギャップがあった。そのため、昨年より段階的にauノートを導入した。
それは店頭スタッフがタブレットやPCを用いて接客に活用するもので、顧客一人一人に適した提案により、顧客が納得して契約する接客を可能とし、同時に業務効率化やスタッフ満足度向上も目的とした接客支援ツールだ。
顧客の契約情報や、個人が特定されないように加工された行動履歴をもとに推計し、接客フローに沿って顧客に適した提案が画面表示されるデータ活用の仕組みだ。
例えば、お客様センターに問い合わせがあった顧客であれば、前回の問い合わせ以降に「その後不明点がないか」を尋ねるよう表示される。その対応後に、利用状況から適した料金プランや、機種変更など顧客に適した提案が複数表示される。
また、auでんき、auスマートパスなどの利用意向のありそうな顧客に対しては、その提案が表示され、他の顧客と比べて、成約率が数十%高い。
提案だけでなく、接客方法も提示される。丁寧な接客を求めている顧客を予測し、それに適した接客をして、満足度を向上させる。実施していない店舗に比べ、友人や家族に推奨しようとする顧客の比率が増加した。
こうした予測は、成約の成否などのデータを反映し、機械学習し、精度が向上する。
カスタマージャーニーは、顧客の態度変容のデータを取得し、タイミングやコミュニケーションを絶えず見直すことで、顧客価値を向上できることに意義があるだろう。
(法政大学経営学部教授)
* 澁谷覚(2019)「デジタル社会の消費者行動 ― 食べログ」西川英彦・澁谷覚『1からのデジタル・マーケティング』碩学舎.
西川英彦(2018)「カスタマージャーニー ― 機械学習し精度向上(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2018年11月9日付け、p.11.