column 2018.9.28

「立ち位置の変更 ― 協働進め新市場創出:Sカレ(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 立ち位置の変更が協働をもたらし、新市場を創造する。その好例が企業からのテーマをもとに実際に商品化を目指す大学生のインカレ「Sカレ」だ。13回目の本年度は、マイナビやDHC、フランスベッドなど11社と、22大学25ゼミに所属する3年生336人の103チームが参加した。

 Sカレは3段階に分かれる。まず6月からのコンセプト・ステージでは、チームは市場調査や試作品製作を行い、10月の秋カン(報告会)で、商品コンセプトを発表する。企業や教員の評価により、各テーマのコンセプト1位が決まる。

 次にプラン・ステージでは秋カンでの意見をもとに改善し企画書を作成し、12月の冬カンでプランを発表する。企業や教員の評価によりプラン1位が決まる。さらに各テーマ1位による決勝戦でプラン優勝も決定。

 最後に商品化ステージでは、テーマ1位の企画をもとに、企業が学生とともに商品化に向けて活動する。翌年10月の秋カンで、9月までに商品化が決まったチームが、活動や発売実績などを発表し、他企業や教員の評価で総合優勝が決まる。

 実は、第9回までは商品化ステージでは、企業に任せきりで、学生も就活もあり商品化への関心も薄く、うまく進んでいなかった。そのため、第10回から総合優勝戦を実施。評価する側であった企業は、その対応が評価される。学生も総合優勝戦に向け両者の協働が進む。その結果、発売される商品が増加した。

 協和チャック工業(大阪市)は、アニメファン向けの普段使いもできる痛バック「デコッチャ」=写真=を企画した法政大の学生と協働する。消費者向け販路をもたないため、クラウドファンディングにより購入者と製造資金を獲得。その過程を見たネット小売りモールからの打診をうけ取引も開始。高井文晶社長は「企業と学生が、取り組むべき使命を共有できた時、大きなうねりが生まれた」という。

 企業と学生の熱い協働作業は、会場にいる次年度の学生に刺激を与え、良い循環ももたらす。一般企業でも、関係者との立ち位置の変更は、協働を促進し新市場創造だけでなく、新たな文化をもたらす可能性をもつ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2018)「立ち位置の変更 ― 協働進め新市場創出(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2018年9月28日付け、p.11.