市場に普及した商品を利用して、新市場を創造する。こんなうまい話があるのだろうか。その好例が、バンダイから3月に発売された「爆釣バーロッド」だ。
拡張現実(AR)空間に出現するモンスターのようなキャラクターを、動き回って追いかけたりする。リールを巻いたり、さおのようにゲーム機を振り出したり、まわりから見ると、さながら釣りをしているように見えるゲームだ。
このゲームは、2つの商品を利用した。1つめは、多くの子供がもつ家庭用ゲーム機のニンテンドー3DSである。カメラや液晶画面、ジャイロセンサーのついた玩具は高価になりがちだが、3DSに取り付けることで品質を落とさずに手ごろな価格で提供できた。
リールの付いたケースは、子供が本体を激しく動かしても持ちやすいグリップを持つ。ソフトは無料でダウンロードできる。
もう1つは、一般の商品についているバーコードの利用だ。「バーコードの奥に未知生命体が住む海がある」という設定で、身の回りのバーコードを読み取ると、バーコードごとに異なるキャラが現れる。約20メーカーとタイアップし、「ガリガリ君」「イソジン」「瞬足」「カルビーポテトチップス」など商品の特徴をキャラが受け継ぐ=写真。爆釣を店頭ポップで表示するメーカーもあり、互いの商品の販売向上につながる。
さらに、メディア連携も秀逸だ。同時に始まった「月刊コロコロコミック」連載の「爆釣バーハンター」で、同じゲーム機を使う主人公が釣り上げたキャラを、漫画についたバーコードから読み込み釣ることができる。
漫画の展開に合わせて、ゲームがアップデートされる。本物の釣りのように、ホビーやフードなど商品タイプに合わせた5つの属性のキャラに適したリールや仕掛けが、次々発売される。秋からはテレビアニメ放送も予定され、新たな仕掛けがあるのだろう。
このように普及した商品だけでなく、他社との連携が市場を創造していく。こうした視点で自社の商品を再検討すれば、未知のおいしい「漁場」があるかもしれない。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2018)「市場の創造 ― 普及した商品利用(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2018年8月10日付け、p.11.