提供:JAXA
先端技術をもつ組織との共創はハードルが高いと思うかもしれない。だが、「目的と手段」で考えれば、道が開ける可能性がある。その好例が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)だ。
佐賀県の「衛星の恵み・うれしの茶」では、高品質の茶葉の製造に使われた。人工衛星の撮影画像から、茶の甘みを決める成分を持つ茶木を選別して、データ分析により最適な摘採時期を特定した。
漁業情報サービスセンターのソフト「エビスくん」では、人工衛星による海水温や海上の風などのデータにより漁場を探査。分析技術や時間が必要な作業が容易になって燃料費用も節約でき、多くの漁船で導入された。
他にも衣服や家電、薬品などの分野で共創が実践されている。こうした共創は3つある。まず「製品や技術の宇宙への適応」。次に「宇宙技術の市場品での活用」で、最後に「宇宙環境や観測データの利用」である。
一般企業から見れば、どのような技術で共創できるのか想像しにくいかもしれない。JAXAの有人宇宙技術部門事業推進部の山方健士主任は講演の場で、分解して発想することが手がかりになると説明した。
船外活動の宇宙服(写真はイメージ)の研究であれば「呼吸ができる」「圧力を保つ」「データをとる」ことなどが必要となる。「呼吸ができる」は「空気をつくる」「有害ガス除去」などに分解される。
さらに「空気をつくる」は「ファン」や「空気循環システム」などの製品や技術にまで分解される。高度な製品も何度か分解していくと、どこで共創できそうかが見えてくるというわけだ。
これは、目的と手段の連鎖で考える発想だと言える。目的のための手段を考え、その手段のための手段、さらにその手段へと連鎖していく。
市場でも、養生資材(目的)のマスキングテープ(手段)が、雑貨(目的)になるなど企業が思ってもみないような使われ方はよくある。
自社製品の目的や手段の考察は、先端組織との共創だけでなく、潜在市場創造のためにも意義があるだろう。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2018)「先端技術と共創 ― 目的と手段、考察大事(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2018年5月18日付け、p.11.