column 2018.2.16

「記述形式 ― 商品アイデアに貢献:発明学会(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 優れた商品アイデアに、記述形式は関係ないと思うかもしれない。だが、アイデアを書くシートの形式が「イノベーション」の発生を高める可能性がある。その好例が、一般社団法人発明学会の「身近なヒント発明展の応募用紙」=写真=だ。同学会の消費者や発明家からは、洗濯機の糸くずネットなどのヒット商品が数多く誕生している。

 21回目を迎えた昨年の発明展では、814点の応募の中から一次審査を通過した98点が入選。その試作品は3日間展示され、24点が協賛企業から商品化の提案を受けた。

 応募用紙の形式は、以下の項目だ。まず「発明の名称」、次に「アイデアの説明図(または試作品の写真)」の記述。見ただけでアイデアのポイントが分かるように書く、使用例の図も一緒に描くと効果的だという注意書きが付く。

 他に「アイデアのセールスポイントはどこか」「改良した部分はどこか、新しい部分(構造、形状)はどこか」「これを作る(使う)と、どの部分が便利になると思うか。また、どのように使ってほしいか」「協賛会社にぜひわかってほしい点はどこか」と項目が続く。これらを丁寧な字でポイントを絞って短文で書くようにと助言がある。

 さらに、自分で分かる範囲で類似特許の「先願調査」、スーパー、デパート、ホームセンターなどの「市場調査の結果」の記述が求められる。類似特許や既存品を詳細に検討することで、差別化できるポイントが明確になるという。最後に「価格」や特許出願準備中などの「権利対策」も聞かれる。

 同学会の中本繁実会長は、「シートを書くと商品化に向けての課題に気づく」という。項目は特許出願と合っていて、商品化に進めやすい。

 応募用紙だけでなく、入選した試作品の展示も重要だ。参加者にとって、段階的な目標となるからだ。さらに、同学会の開催する勉強会や、その後の懇親会にも意義がある。そこでの交流が、新たなヒントや動機付けとなるからだ。

 こうした工夫がイノベーションの発生や長期継続をもたらすのだろう。自己学習や相互学習を促す仕組みがカギだ。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2018)「記述形式 ― 商品アイデアに貢献(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2018年2月16日付け、p.11.