column 2018.3.30

「不満買取センター ― 革新的な製品開発も(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 実際の画面では企業名は表示される

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 消費者参加型の製品開発では消費者からアイデアを聞く場合が多い。一方、顧客窓口には不満が寄せられる場合が多いだろう。両者を合わせた、消費者の不満を起点にしたアイデアが、今までにない革新的製品の開発には有効かもしれない。その好例がインサイトテック(東京・新宿)の運営する「不満買取センター」=写真=だ。

 消費者から製品やサービスについての不満をパソコンやアプリを通じ、1件1円から10円で買い取る。38万人の会員が毎日約1万件から4万件を投稿し、累計800万件に達する。不満は1千件あたり50万円で企業に販売される。

 不満だけではなく、同時に「こうあったら」というアイデアを書く消費者も多い。「ホットのミネラルウオーターが自販機にないのが不思議。子供がミルクの時代にあれば良いのになと思った」「開封前は横にして冷蔵庫に保管できるのに、開封後は立てないと冷蔵保存できない。飲むヨーグルトやジュースは開封後も横にして保管できる容器があるのに牛乳だけはないですよね?」などの投稿が寄せられる。

 フランスベッドではベッドの不満は、寝心地やサイズ、価格などの本質的な価値に対する不満が多いと考えていた。実際には「スマホが充電できない! できるようにして」「もっと物がおけるようにして!」など、付加的な価値に不満やアイデアがあった。対応して発売した結果、同社の同価格帯のベッドに比べ、4倍の売り上げをあげる。

 消費者自身が行う製品開発の研究である「ユーザー・イノベーション」の分野では高い不満があるがゆえに開発を行う「高便益期待」を持つユーザーほど、イノベーションをもたらすと言われる。不満が大きい消費者のアイデアは革新的製品開発につながる可能性が高いというのだ。

 インサイトテックでは、AIを活用し、低不満、嫌気、怒りという消費者の不満の度合いを分類できる。「怒り」は数が少なくても対応の優先順位は高く、さらにアイデア付きであれば、イノベーションの芽も持つのだ。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2018)「不満買取センター ― 革新的な製品開発も(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』2018年3月30日付け、p.15.