column 2014.10.23

「顧客の修理依頼に着目 ― 原因を分析、新市場創造:エクスワード(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 特定顧客層の修理依頼の原因が、新市場創造の可能性を持つ。その好例が、カシオ計算機の電子辞書「エクスワード」の堅牢(けんろう)設計「TAFCOT(タフコット)」だ。いわゆるタフな設計である。

 2004年モデルから採用され、電子辞書市場の業界トップで、半数を超えるシェア(GfKジャパン調べ)を持つ同社の電子辞書の標準設計となった。

 1996年発売のエクスワードは、2001年に他社に先駆けて、高校生をターゲットにした新市場に参入した。ハードは共通で、辞書は英和辞典や国語辞典以外に古語辞典などを搭載し、高校生を向けにアレンジしたモデルだ=写真は「XD―U4800」。

 そんな中、03年にサービス部門から従来品に比べて高校生モデルの修理依頼が増えていることが設計部門に伝えられた。「使おうと思ったら、液晶ディスプレーが割れていた」という理由が多かった。何か既存顧客の社会人や大学生とは異なる特殊な状況があるに違いないと考えられた。

 そこで、設計部門の責任者2人は、通学スタイルやバッグの扱い方を理解するために、修理依頼の特に多い高校近くの駅周辺で、生徒の行動を観察した。

 多くの高校生が薄いナイロン製バッグをカゴに無造作に放り込み、勢いよく自転車をこいでいた。駅ではバッグの上に座っている高校生もいた。バッグ中に製品があれば荷重や衝撃はかなりのものだろう。

 過酷な使われ方に対応するため、品質規格が見直された。もちろん、それまでも衝撃落下、折り曲げ、部分加圧、全体加圧の4項目で厳しい要求を満たしてきたが、4項目を高水準に設定するだけでなく、衝撃的な部分加圧や、6面4隅全ての箇所を落下面とした衝撃落下の検証が追加された。タフを想起させるよう名付けられた、「TAFCOT」規格が生まれた。

 この規格をうけ、液晶を固定する外壁を二重構造にしたり、クッション材を入れたり、ヒンジを長くするなどして、従来のサイズや重さをあまり変えず、規格を上回る設計が完成した。その結果、高校生からの返品を2割に大きく減少させるだけでなく、エクスワードの売り上げに貢献した。

 今回のケースと同じようなことは実現するには、顧客や利用シーンなど、属性別の修理や返品率を把握できる体制が不可欠となる。さらに、その前提として、属性に何を設定するかが、カギとなるだろう。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2014)「顧客の修理依頼に着目 ― 原因を分析、新市場創造(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2014年10月23日 付け、p.15